親世代七年生〜その後

□一○話
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これは考えていたよりも厳しい戦いになりそうだ。
「それではみなさん位置についたようなので、開始の合図をお願いします!」
審判である飛行訓練担任がクァッフルを持ち、ホイッスルを構えながら中央に浮かんだ。
そして数秒後、クァッフルを上へと投げた。
キーシャが真っ先に飛び出し、クァッフルを抱えて相手ゴールへ飛んでいく。
今までのレイヴンクローではあり得ない、というか、他の試合でもあまりとられることのない戦法に驚いた実況者が叫んだ。
「なんということでしょう!レイヴンクローのキーパーであるはずのウィンチェスターが、自軍のゴール前から大きく離れている上、クァッフルを抱えて突撃しているー!」
それからすぐにこちらが先制点を取ったが、試合は始まったばかりなので油断せず、ブラッジャーを追いかけた。
借りたバットがあろうと、やはり男子とは根本的に体のつくりが違う。
ブラッジャーを追いかけるが、遠くまで飛ばされてしまい、なかなかこちらに渡ってこない。
危険なのであまり取りたくない行動だったが仕方ないと、相手の横からかすめ取ろうともう一人のビーター、ソニアに私とは別の相手ビーターの近くへ行くよう指示した。
向こうはそれに気づき、攻撃対象を変えた。最初にソニアが狙われた。
私はソニアが避けたブラッジャーを追い、誰もいない空間にバントした。そこへソニアも追いつき、同じようにバントする。
「オイオイ!」
「くだらねーことしてんじゃねぇよ!」
スリザリンのビーターたちに怒られ、ソニアは萎縮した表情になったがバントすることはやめなかった。
スリザリンのビーターたちはブラッジャーを狙って飛行していたが、次第にしびれを切らして体当たりをしてきた。それでもブラッジャーは譲らずにいると、審判がホイッスルを鳴らした。
「コビング!」
スリザリン側が過度の肘の使用をしたため、ペナルティーが科せられた。クァッフルがこちら側に渡った。
相手ビーターたちが憎々しげにこちらを威嚇し、今度はブラッジャーに狙いを定めて飛び、ブラッジャーを上へと打ち上げた。
ブラッジャーは、レイヴンクローのチェイサーたちの列に飛び込んでいった。誰も当たりはしなかったのは幸いだ。
追いかけるために上昇していると、横から体当たりをされて弾き飛ばされた。横を見ると、ニンバスに乗った相手チェイサーがいた。
なぜわざわざ体当たりをするためにチェイサーが来たのかわからないまま、再び上昇しようとした。
しかし、今度は別の相手メンバーが反対側から体当たりをしてきた。
バットを片手に持っているため、よろけてから態勢を整えるまでに数秒かかる。
その隙を突かれ、挟み込まれてしまった。グイグイと両側から押され、思うように飛べないでいると、斜め上から通常よりも大きなソニアの声がした。
気がついた時にはブラッジャーがすぐそこまで迫っており、両側にいた相手メンバーが哄笑と共に私から離れた。
ブラッジャーが顔面に直撃し、激しい痛みを感じたのは一瞬だった。
私の意識は瞬く間に、暗闇の中へ深く沈んだのだった。





「……!」
目を見開いた。左目以外包帯で巻かれており、片目が覆われていて視界が悪い。そして頭の大部分と、落ちた時打ちつけたのか左肩から左足のふくらはぎにかけて痛む。
眼球を動かして包帯越しに呻くと、お菓子を食べていた周囲の人々が私へ見舞いの言葉を口にした。
周囲にいたのはレイヴンクローのチームメンバーとカルナ、エドワード、そしてグリフィンドールの面々だった。
近くの椅子に腰掛けているカルナが、細長い甘草あめをぽりぽりと口の中で噛み砕きながら言った。
「お疲れー。目ぇ覚めてよかった」
「…めっちゃ痛いっす…」
もごもごと返答すると、私が目覚めた報せを受けてマダム・ポンフリーがやって来た。
「痛み止めの薬です。吐き出さずに全部飲むのですよ」
「………ハイ」
吐き出さずに、ということはよっぽど苦いようだ。嫌だ。本気で嫌だ。
話すことは億劫なので視線でカルナに気持ちを訴えると、クスクスと笑われた。
「体起こす?」
リーマスがベッドの調節バーに手を伸ばしながら尋ねてきた。
私は頷き、ちょうどいい角度になったところで手の中にある痛み止めの薬を見つめた。
「………」
「僕も苦いのは苦手だから、気持ちはわかる」
「………」
「頑張って」
リーマスに励まされ、観念して口元の包帯をずらした。そして薬に恐る恐る顔を近づけた。
「ぐっ!」
匂いだけでも相当に不味いことが窺えた。ますます嫌気がさしたものの、飲まなくては痛みが治まらないので意を決して飲み干した。
「ぅぅぅっ!」
舌を伝って脳へ届いた刺激が、あまりの苦さに胃へも伝わった。胃が拒否反応を起こしたので、吐かないよう口元を押さえて堪えた。
吐き気が少しおさまった頃に、リーマスが水をくれた。
「はい、水」
「ありがと…」
水を一気に飲み干し、なんでもいいからお菓子をくれと言うと、みんなしてベッドに置いた。
リーマスとカルナがそれをまとめつつ、クッキーやチョコの袋を破いて取り出し、私の口元に寄せた。
「はいあーん」
まずはカルナから。素直に口を開き、クッキーを咀嚼した。
「あーん」
今度はリーマスのチョコを。お菓子ってこんなに美味しいんだな、と実感しつつチョコも飲み込んだ。
「災難でしたね〜」
「ですねー…」
エドワードの軽い慰めの言葉に、力なく返す。
体感で、開始五分ほどだっただろうか。ホグワーツの試合の中でも語り草になるであろう、高速ブラックアウト。恥ずかしいやら不甲斐ないやらで嫌な気分だ。
たくさんの作戦を考案し、気合いを入れて必要の部屋まで使って練習してきたのに、ものの五分で。ああ。穴があったら入りたい。
「あんたがいなくなったあと、みんな頑張ってたよ」
「…みんな、お疲れ。ごめんね…」
危なくなったら逃げてと、試合開始前に自分で言っといて逃げられなかったことも不甲斐ない。ああ…穴が、穴が欲しい!
内心恥ずかしくて悶えていると、アンナが底抜けに明るい声を出した。
「勝ったからオールオッケーですよっ!」
マダム・ポンフリーが離れた場所から怒鳴った。
「静かにしなさい!」
「うぃっ!」
すぐに怒られて肩をすくめた。
私は二個目のクッキーを飲み込みながら、にやにやとこちらを見て笑っている全員を見回した。
開始五分で戦力が一人分欠けたのだから、てっきり負けたと思っていた。聞き間違えかと思いつつ、近くのカルナに聞き返した。
「勝ったの…?マジで?」
「マジマジ」
カルナは満面の笑みで三個目のクッキーを用意しながら返した。
私は右拳をわずかに上げ、ガッツポーズをした。
「やったじゃん、キャプテン」
「うわぁー…!ホントよかったー…」
しかし、私は何もできなかった。
素直に喜べないでいることを勘づいたのか、カルナがフォローを入れてきた。
「あんたがたてた作戦が少しでも役に立ったんだから、キャプテンとして胸を張っても、メンバー全員文句は言わないよ。でしょ?」
メンバー達から口々に同意の声が上がり、じわりと涙が滲んだ。リーマスにそれをティッシュで拭われた。
「キャプテン冥利、ここに極まれり、ですねぇ」
エドワードが懐かしい言葉を言い、それに反応してカルナがエドワードを見上げた後、こちらへ笑顔を向けて言った。
「一年間、お疲れ。キャプテン」
私も包帯の向こう側から微笑みながら、視線をカルナからチームメンバーたちに移した。
最後の最後でかっこ悪いキャプテンだったけど、みんなのおかげで勝てた。
心から感謝を込めて言わせてもらいたい。

「みんな、ありがとう」
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