死の秘宝

□六話
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ヴォルデモートの崩御から二日後、スネイプ釈放の報せを聞いた私はルーピンと共に魔法省へと出向き、内部の一室に拘留されているスネイプを待つパパラッチ群れを遠巻きにしながらその時を待っていた。
やがて部屋の中から何人もの護衛に四方を囲まれた、見慣れた闇色のローブが姿を現した。
「お勤めご苦労様でしたー!」
ひしめき合うパパラッチたちの背後から大きな声でそう叫んだ。
パパラッチの体が一瞬固まったが、気を取り直すとすぐにスネイプに詰め寄った。
「………」
揉みくちゃにされているスネイプの顔は険しい。確実に怒っている。
「…どうしましょう?」
「そうだなあ…これだけ人との距離が近いと、姿くらましをしてもついてこられるからなあ…」
「吹っ飛ばしたいですねー」
「そうしたいところだけどね」
ルーピンはそう言っていたずらっぽく笑った。
そうしているとキングスリーも交じり、他の魔法使いと共にハイエナのように群がるパパラッチたちを抑え始めた。それでも引く気配がないので魔法使いたちは魔法による実力行使に出た。
「おお」
急にパパラッチたちの動きが、テレビの停止画面のようにピタリと止まった。
「あまり長くは保たない。早く行け」
「はい。…先生、お疲れ様です」
こんなに早く自由になれるとは思っていなかったので、二日前大泣きしていたのがバカみたいだった。
「お疲れセブルス。…それじゃあ行こうか」
ルーピンは素早い動きでスネイプの腕に自身の腕を絡めたので、スネイプは驚いて振りほどこうと身じろぎした。
よほど嫌らしい。歯ぎしりをしながらルーピンを睨んでいる。
そして私も絡まると、いよいよ暴れ始めた。
「暴れないで下さいよー。今から姿くらまししますから」
「何?」
スネイプは暴れるのをやめて私たち二人を交互に見た。
「みんな待ってる。いくよ」
「どこへ?」
「着いてからのお楽しみです」
「じゃ、三、二、一」
移動が開始した。未だに吐き気を催すが、初期よりは大分慣れてきた。
吐き気を堪えながら、匠の手によって広々とした空間に生まれ変わったブラック家の厨房に着いた。
「お待たせしました!お待ちかねのセブルス・スネイプでーす!」
手を上げてアピールすると、スネイプの到着を待っていた人々は口々に歓迎の意を述べた。
「……なるほど」
私とルーピンは腕を解き、スネイプの横顔を見て微笑みかけた。
「逃がしませんよー。杖を取り出したら武装解除で邪魔しますからね」
「そのあと椅子に縛りつけるかもね」
「このような馬鹿騒ぎなど…」
「下らなくともお付き合い下さいよ。一度くらい騒いだっていいじゃないですか」
「今日は私たちにとってそんな日なんだから。君に少しでも楽しんで欲しいんだ」
「………」
「おっ?心の中で了承しましたね?じゃあ、上座へー」
どうぞ、と手で上座を示すと、人々が見つめる中、重い足取りで上座へ座った。
「一時間だけだ」
「ダメです。一日です」
ピシャリとぶった斬ると、苦々しい顔をして私を見上げた。
私は視線に笑顔で応えると、幹事役のルーピンに視線を送った。
「あー、彼はいろいろなことをしてきたのはみんなもう知っていると思う。今さら長々と新聞やハリーの話のおさらいはしないでおこうと思う。みんな、グラスを。…持ったかな?では…我らが影の功労者、セブルス・スネイプに」
人々は唱和した。
「セブルス・スネイプに」
「乾杯!」
合図と共に、部屋中が明るい声に包まれた。双子なんてシャンパンの掛け合いをしている。それを見たおばさんが二人に拳骨をかましたのをしっかりと見届けた。
どんちゃん騒ぎの中、私はスネイプの近くに腰を落ち着け、シャンパンを飲んだ。
そこへ笑みを浮かべたハーマイオニーとジニーが来て、綺麗にラッピングされた包みをスネイプへ差し出した。
ハーマイオニーが言った。
「二人で買ってきました」
スネイプは無言でハーマイオニーを見つめた。今度はジニーが言った。
「スネイプ先生が校長じゃなかったら、ホグワーツはもっとひどいことになっていました。ダンブルドア軍団を抑えていたのは、懲罰を受けさせないためだったんですね?」
やはり無言のままだった。しかし否定しないのでジニーの考えは外れてはないだろう。
「…ありがたく受け取ろう」
「俺たちも!」
「どうもー!」
シャンパンを頭から滴らせながら、陽気な双子が一つの包みを持って大手を振りながらやって来た。
「「在学中はお世話になりました」」
「ああ。散々世話したな。ポッターよりも遥かに…」
スネイプの口撃に二人は顔を見合わせ「おお、怖ー」と同時に言うと、スネイプの目の前に包みを置き、通販番組よろしく包みの中身の紹介を始めた。
「そんな先生にコレを進呈!」
「一日中ベタつきを抑え、スッキリ爽やか、清潔な地肌に」
「シャンプーがきめ細やかな泡が毛穴の汚れを洗い流し」
「すすいだあとはリンスで髪の毛のダメージを補修し、艶と潤いを保ちます」
「ウィーズリー・ウィザード発シャンプー、アンド、リンス」
「使い心地はテスト済み」
「安心安全の逸品です」
「先生のために開発しました」
「リピート大歓迎」
スネイプは双子の流れるような説明を聞き、不機嫌な顔になったが無言で頷き、包みを自分の方向へ寄せた。
「先生」
そこへなんと、ルーナが来た。まさかのルーナにスネイプ以外の一同は目を丸くしていると、ルーナは極彩色で着色された、何かの骨が幾つも垂れ下がったストラップを手渡した。
「新しいナーグル除けのお守り。お父さんにアドバイスしてもらって作ったンだ。骨はレプラコーンの骨だよ。先生の家、ナーグル居そうだなってずっと前から思ってたンだ」
これにはスネイプもたじたじだった。聞いたことのない魔法生物を耳にし、困惑した表情でルーナを見つめた。
「Ms.ラブグッド、ナーグルとは?」
「意外…知らないンだ?」
ナーグルってぃぅのは…
ルーナはナーグルの詳細を説明した。
いるのかいないのかよくわからない生物が家に住んでいると思われおり、あまつさえそれに対する魔除けをプレゼントされて喜ぶ者がこの世にいようか?
スネイプは困惑したままだったがルーナの好意を無下にすることができず、結局は受け取った。
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