本棚2

□分岐点
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「ただいま〜」
「…ルフィ、遅かったな」
「え、エース? 電気くらい付けろよ」

真っ暗なリビングから兄であるエースの声が聞こえて、ルフィは驚いてしまう。
てっきり二階の自室にいるのだと思っていた。
リビングに電気をつけるとソファーに俯いたまま座っているエースがいる。

「それに遅いって言っても、まだ七時だぞ?」

壁に掛かっている時計を見て、ルフィはエースに言った。

「どこに行ってたんだ?」

ルフィの発言もお構いなしにエースは質問してくる。
どこか怯えながらルフィは応えた。

「き、昨日言っただろ? 友達とご飯食べてたんだ」
「誰と?」
「ゾロとウソップとナミ」
「……そうか」

エースはゆっくりと立ち上がり、ルフィの目の前に立つ。そして、片手でルフィの顎を掴んで上を向かせた。

「遅くなるときは連絡しろよ?」
「わ、わかった…おれ、風呂入ってくる」

エースの手を振り払い、ルフィは引きつった表情で二階にある自分の部屋へ向かう。
部屋へ向かう途中もエースの視線を痛いほど感じていた。

いつからだろう。
仲の良い兄を怖いと思うようになったのは。
いつからだろう。
家にいるのが苦痛になってきたのは。

「ふぅ……」

自分の部屋に入り、ルフィは安堵のため息を吐く。

ルフィ達の両親は海外を飛び回るような仕事をしていて、家に帰って来ることは少ない。
環境が変わる生活でも拠点はいるだろうとルフィが生まれてからは現在ルフィ達が住んでいる家が我が家ということになった。
ルフィとエースが幼い頃は家政婦が来ていたが、ルフィが中学生になった頃にエースが金の無駄だと家政婦を雇うのを辞めたのだ。
それ以来、大きな家でエースと二人暮らしをしていた。かといって家族仲が悪いわけではなく、両親とは手紙や電話のやりとりをそれなりにしている。
二人でも寂しさを感じることなく、ルフィが高校一年生、エースが高校三年生になった今でも仲良く暮らしていた。
そう、仲良く暮らしていたはずなのに。ルフィはいつからかエースが怖くなってしまった。
大好きな兄を怖いと思うなんて、自分はどうかしているのだろうか。

ルフィは思い切り首を横に振って、考えに沈む意識を浮上させた。

「よし、風呂だ風呂!」

着替えを持って、風呂場に向かう。階段の下にはエースがいた。
横を通り抜けようとして、いきなり壁に押さえつけられてルフィは驚きすぎて声が出ない。

「何のニオイ?」
「……え?」
「なんか、イイ匂いがする」

首筋を嗅がれ、ルフィは声を上げそうになるが何とか止まった。

「こ、香水じゃなかな? ナミに面白がってかけられたから…」
「へェ? そうなんだ?」
「っ…エース、ヤダって!酔ってんのか?」

匂っていたはずの首筋を舐め上げられて、ルフィは困惑する。
怖い。
違う、怖くない。ただの冗談だ。
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