和風パラレル本棚

□第壱章 邂逅
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サンジにはよく見る夢があった。
自分の屋敷の縁側で同じ人物と話をするだけの夢。



サンジは自分の意志で夢の内容を決めることが出来た。
特に何をするわけでもなく、屋敷の縁側でたった一人、のんびりと休む。
ぽかぽかとした陽気、風が通り抜ける感覚や小鳥のさえずりだけを肌で感じるような穏やかな夢。
毎回、そんな夢ばかりを好んで見ていた。
五歳の子供が見るにしてはつまらない夢だ。
しかし、現実世界でサンジはなかなか一人の時間が持てないような立場にいた。
誰もいない夢の中なら気を遣わなくてもいい。だから、サンジは自分の見る夢にかなり満足していたのだ。

いつものように今晩も同じ夢を見る予定だった。
しかし、今日はいつもと違い先客がいた。

「よっ!」

驚くサンジを全く気にしないで先客の男はにっこりとサンジを見た。
もしかして、誰かを想像して眠ってしまっただろうかとサンジは男をじっと見る。
少し汚れた着物を着た黒髪で左目の下には傷のある年上の男。
どう考えても見覚えがなかった。そんな人物が自分の夢に現れるなどありえない。

「……誰だ、お前」
「あはは、誰でもいいじゃねェか。夢の中のことなんだしさ」
「よくねェよ…どうやってこの夢に来た?」

サンジより十歳ほど年上に見える男はにこにこと笑って縁側に座っている。
僅かに顔を引きつらせてサンジはとりあえず、男の横に座った。

「えっ? この夢に入るのにはお前の許可がいるのか?」
「そうだよ…これはおれが見ようとして見てる夢なんだから知らない奴がいるなんて変だろうが」
「へェ〜! 見たい夢を見れるのか〜そんなこと出来るんだ! お前、スゲーな!」

ひたすら感心したように騒がれ、サンジは少し照れたように男を見る。
確実に年上なのに、初対面なのに、なぜだろう自分よりも頭が悪そうに見えた。

「ってことは、このデカイ屋敷はお前の家なのか?」

男はサンジの視線を気にすることなく、座ったまま楽しそうに辺りを見回している。

「ジジイが有名な陰陽師だからな。依頼も多くて金には困ってない」
「陰陽師? そりゃ大変かもなー」
「知ってんの?」
「うん、少しな。でも難しいからよくわかってない」

目の前にいる男は見栄や意地はないらしい。
知らないことは知らないと言える、その飾らない態度に自分が接したどんな大人より大人に見えた。
頭が悪そうと思ったことをサンジは脳内でこっそり訂正する。

「まァ、陰陽師なのはジジイだけだ。妖怪退治は家系でしてるけど、みんな自分に合ったモノで退治してる」
「まさかと思うけどお前もしてるのか?」
「弱いのとなら。術は苦手だから、刀に霊力をまとわせて妖怪を斬ってる」
「勇ましいな。なんつーか、あんまり無理すんなよ? まだ子供なんだからさ」

馬鹿にしたようにではなく真剣に心配され、サンジは苦笑した。
強がったところで自分は子供なのだ。
本当のことを言われて怒るのもガキくさい。

「あァ、気をつける」
「それにしても他に誰も現れない夢だな〜。ま、まさか一人になりたい夢だったのか?」
「そういうわけじゃねェけど。屋敷がデカイから人も多い。付き人もいるし、一人になる暇がない。一人になる時間がないと疲れるんだよ」
「あっははは! ガキなのに大変そうだな」

苦労少年を大笑いする無神経男をサンジは睨む。しかし、同情されるよりは断然気は楽だ。
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