盗賊と影の本棚

□1 盗賊と影
1ページ/12ページ

「お頭〜今回の獲物は、やめときましょうよ。捕まったら死刑もありえるし…」
「お頭って言うな。変な敬語もやめろ。怪しまれる。はァ、おれが捕まると思ってんのか?」
「思ってねェけど〜サンジは捕まらないかもしれないけどおれが捕まるかもしれない」
「相変わらずウソップはネガティブだな」

サンジは鼻で笑いながら今夜、盗みに忍び込む屋敷を見上げた。

事の発端は三日前。
サンジ達がこの町に辿り着いた日に遡る。



***



こんな夜更けに開いている店なんてバーぐらいしかなく、サンジと一部の部下はバーで食事をしていた。

「昨日の盗みは簡単過ぎて拍子抜けだったな」
「今頃、宝石がなくて慌てんじゃねーか?」
「こんな堂々としてたら誰もおれ達が盗賊だなんて思わねェよな」

酒も入り、テンションの上がっているメンバーは少し口が軽くなっているようだ。

「お前ら話題には気をつけろよ」

カウンターからのサンジの一喝に部下達はおとなしく食事を続けた。
バーのマスターは話の分かるタイプらしく何食わぬ顔でコップを拭いている。

「お頭は今夜どうするんですか?」
「あ? そうだな」

ウソップは宿を探しに行こうとしているらしくサンジの予定を聞きに来た。

もうほとんどのメンバーが食事を終えているので後は寝るだけだろう。
前回の盗みの後、すぐにこの町へ移動してきただけに部下達からは疲れが伺えた。

サンジはカウンターの隅に座る女性に目をやってからウソップを見た。

「おれはいい。お前らは先に休んでろ。あと、変な敬語やめろ。敬語遣われるとむず痒い」
「すまん、クセだ……了解、いつもどおりな。女遊びもほどほどにしとけよ」
「了解」

ウソップを先頭に部下達はぞろぞろと酒場から出て行く。

サンジは先ほどからこちらへ熱視線を送る女性の横へ席を移動した。

「うふふ、あなた達って盗賊なのね」

艶やかな衣裳に強めの香水、顔も悪くない。
明らかに娼婦とわかる出で立ちに、笑いながらサンジは女性の腰を引き寄せた。

「まァな。秘密にしといてくれ」
「私を買ってくれたら黙ってるわ」
「了解」
「うふふ、あなたが盗賊の中で一番タイプだったの。安くしとくわ」
「自分を安売りすることはない。あなたほど美しい方なら高くても一夜を伴にしたい輩もいるのでは?」

サンジのセリフに、まんざらでも顔で女性は笑った。

「上手ね。さ、行きましょ」
「ああ。金、ここに置いとくぜ」

サンジは盗賊であることの口止めも兼ねて店主に多めに硬貨を置いて、女性と酒場を出た。

女性行きつけの宿屋に案内される。
サンジは女性をベッドへ押し倒し、聞きたかったことを尋ねた。

「この町で高価なモノってあるか?」
「う〜ん、そうね。私でも欲しいモノがあるわよ」
「なんだ?」

首筋に口付けながらサンジは続きを促す。

「ふふ、盗賊ですものね。私の身体よりそっちの話の方が興味あるかしら?」
「意地悪な質問だな」
「冗談よ。ほら、こっち」

女性は起き上がり、苦笑いするサンジを窓際に引っ張った。

「大きなお屋敷が見えるでしょ? あそこはお宝がたくさんあるわよ」
「確かにデカイな」

楽しそうに笑う女性の声を聞きながらサンジは闇の中へ目を凝らす。
恐らく、この町で一番大きな屋敷だろう。

「領主の家だから当然よ。警備も多いわよ? 兵士が二十四時間体制でうろついてるもの」
「それは大変そうだな」

そう言いながらもサンジはすでにあの屋敷に入るシミュレーションを考えていた。

「高価なモノはたくさんあるでしょうけど、この町の女性が憧れるのは代々受け継がれる首飾りね」
「首飾り?」
「ええ、今では希少な石もはめ込まれているらしいわ。一般人は目にすることもできないわよ。いつもは地下に厳重に保管されているもの」

女性は目を輝かせて屋敷を見つめている。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ