盗賊と影の本棚

□2 記者と依頼
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「さっむー! サンジ、息が白いぞ! 久々にデカイ町だ!」

寒いのに嬉しそうにルフィは辺りに残る雪を見て、はしゃぐ。

「寒い地方だからな。ほら、前見ろよ。転けるだろ」
「おう!」

微笑ましい光景にサンジも自然と頬が緩む。

ひたすら北の町を目指し、時には野宿、時には小さな宿で休息し、やっと辿り着いたところだ。

屋敷を出て、一週間。
初めのうちは寂しそうにしていることも多かったが今のルフィは笑っていることが多い。
その事実にサンジは幸せな気分になった。

「何、ニヤけてんだ?」
「うるせェ、ウソップ。さっさと宿探して来い」

幸せを邪魔されたようで思わず、話しかけてきたウソップを睨む。

「怖っ! ルフィに対する態度と全然違うな。了解〜サンジも宿に泊まるのか?」
「ああ」
「えっ!?」

予想外の返答にウソップは驚きの声をあげた。
毎回、サンジにどうするか聞いていたが大きな町で宿に泊まるのは今回が初めてではないだろうか。
いつもは適当に見つけた町の女や娼婦の部屋に泊まるのに。

「……なんか文句あんのか?」

驚き過ぎて固まっているウソップをサンジは再び睨む。

「い、いやいや、滅相もない! 探して来まーす!」
「早くしろよ」

ウソップが驚くのも無理はないと思うが露骨に驚かれると腹が立った。

「サンジサンジ」
「ん?」

ぐいぐいとルフィに服を引っ張られ、サンジはルフィを見る。

「雪だるま」

ニカッと笑って、地面を指差した。
そこには小さな雪だるまがちょこんと置かれている。
ウソップとのやり取りの間に作ったのだろう。

「………可愛い」
「だろ! もっとデケーのも作り…わっ」
「雪だるまじゃなくて可愛いのはお前だ」

あまりにも可愛らしい様子に我慢できず、サンジはルフィを抱きしめた。

「な、なに言ってんだ! しかも、人前で…うー、放せ〜」
「誰もいなかったらいいのか?」
「そ、そういう意味じゃないって!」

耳元で囁かれルフィは、びくっと体を震わせた。

「可愛い反応するなよ。押し倒したくたるだろ?」
「知らない! いい加減、放せっ」
「…ハイハイ」

真っ赤な顔で怒るルフィをサンジは渋々、放した。
仲間達は見てみぬフリをしてくれるのだがルフィはそれでも恥ずかしがる。

「もー、急に変なことすんなよ」
「変なことではないだろ。こんなことで恥ずかしがってたら、この先どうするんだ」
「知るか! どうもしねェよ! サンジは危険だ」

頬を膨らませてルフィは怒る。
しかし、その顔は赤い。

「危険だぜ? せいぜい、気をつけろよ」
「……寄るなよ〜」

ルフィの腰に手を回し、サンジはニッコリと笑った。

「無理だ。おれは独占欲強いからな。これでも結構抑えてるんだぜ?」
「そうなのか?」
「そうそう。今、着てるコートもマフラーも手袋も切り裂いてやりたいぐらいだからな」

笑顔で怖いことを言うサンジにルフィは驚く。
大好きなナミとゾロから貰った大事な大事なプレゼント。
それを切り裂かれては堪らない。絶対泣いてしまう。
無論、サンジは他人から貰ったプレゼントを大事にするという行為自体が気に入らないのだがルフィは持ち前の鈍さで気がつかない。

「なっ! そんなことしたらサンジのこと大っ嫌いになるからな!」
「分かってるって。それが死ぬほど嫌だから我慢してんだろ」
「……頑張って我慢してください」
「了解しました」

ニッコリと笑うサンジを胡散臭げに見つめてからルフィは思い出したようにコッソリと問いかけた。

「そういや、何を盗むつもりなんだ?」
「ん? 考え中。聞き込みでもするかな」
「え? 欲しいモノがあったから、この町に来たんじゃないのか?」

てっきり、何か盗む予定があって遥々旅をして来たのかと思いきやそうではないらしい。

「別にねェよ。ただ、お前がコートとか早く着たそうだったから」
「え…おれのため? あ、ありがとう」

サンジの心遣いにルフィは本気で感動した。

「…さっさと領主から遠ざけたかったっていうのもあるがな」
「へ?」

ボソッと呟いたセリフが上手く聞こえず、ルフィは首をかしげた。
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