盗賊と影の本棚

□6 吸血鬼と警察
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「「吸血鬼〜?」」

サンジは心底どうでもいいような表情で、それに比べてルフィは心底楽しそうな表情で、怯えているウソップを見た。

「そうなんだよ! この町には出るんだよ!」
「いや、そんなわけないだろ」
「えーい! この記事を見ろ! 今すぐ町を出よう!」

ウソップは持っていた新聞をサンジに押しつけて、再び震え始める。
イスへ腰掛けているサンジの肩越しから、ルフィも荷物の片づけを中断し、新聞を覗き込んだ。

宿に着いたばかりで、のんびりしようとしていた矢先にウソップが騒ぎながら部屋に飛び込んで来たのだ。
というか、これからルフィとイチャつこうかと思っていたサンジは邪魔をされて、ものすごく不機嫌だ。
しかも、今回は少々長居しようかと考えていた。古くなった備品も買い換えたいし、裏の換金所は近場ではこの町にしかない。
この町で盗みをしないとしても、最低三日は滞在したいところだ。

そして、ウソップの話がにわかには信じられず、気持ちを落ち着けてサンジはとりあえず新聞を見た。

「なになに〜? 『某日。またしても、この町に残酷な殺人鬼が現れた。狙われたのは身寄りのない美しい娼婦。殺害現場は霧の立ち込める細い路地裏だ。被害者の共通点は長い黒髪の女性。そして、殺害された女性の首に不自然な歯形のようなものがあることだ。検死の結果、後頭部に鈍器のようなもので殴られた痕があった。しかし、これは直接の死因ではないようだ。その他に外傷は首の傷口しかなく、そこから血液が多量に抜き取られていることが分かった。死因はそのことによる出血死だ。これはまるで伝説に聞く吸血鬼のようではないか。警察や青年団の見回り、警備を強化したばかりの我々を嘲笑うかのような手口に怒りと恐怖を憶える。事態を重く見た地元警察は国家警察に応援を要請したようだ。しかし、自分の身は自分で守らねばならないだろう。夜中の一人歩きは老若男女関わらず、止めるよう厳重に警戒する。』」

覗き込むルフィにもわかるようにサンジは声に出して記事の一部を読み上げる。
殺害現場の写真と被害状況、記者の見解が一面を飾り立てていた。
被害者は三人目。この平和な町には珍しい凶悪犯罪。
サンジはため息を吐きたい気分をぐっと堪える。

「危険だとは思うが吸血鬼ってのは記者が面白がって書いただけだろ。この愉快犯は世間が騒ぐのを楽しんでる。快楽殺人者だろうな」
「えー! 吸血鬼はいないのか…でも、最低だな。人の命で遊んでる」
「そうだな…早く捕まるといいんだがな」

静かな怒りを湛えるルフィの頭をサンジは撫でた。
確かに許せる犯罪ではない。快楽殺人者が今もこの町で平然と暮らしていると思うと気分のいい話ではなかった。
しかし、ウソップは犯人が吸血鬼だと信じているようだ。

「ホントの吸血鬼だったら捕まるわけないだろ! きっとこの町には人の血を飲む種族がいるんだ! 今すぐこの町を出た方がいいに決まってる!」
「こんな物騒な町を出たいのは山々だが、旅の備品を買い変えないといけねェのは、お前もわかってるだろ?」
「わかっちゃいるが怖いもんは怖いんだよ!」

ウソップの両足は面白いほど震えている。それを見て、ルフィは胸を張った。

「大丈夫だって。なんかあったらウソップはおれが守ってやるよ〜なんなら、護衛してやるし」

にかっと太陽のような笑顔でルフィに笑われて、ウソップは少し安心する。しかし、視線をサンジに移し、即座に後悔した。
遠くの殺人鬼より、身近なサンジの刺す様な視線の方が怖い。

「い、いや! おれは宿から出ないことにするから! 用事があったら部屋に来てくれ〜!」

叫び走りながらウソップは二人の部屋から出てしまった。

「あれ? どうしたんだろな…別に一緒にいればいいのに」
「そうだな〜怖いなら一緒にいればよかったのにな」

不思議そうにルフィはサンジを見る。
自分が追い出したとは欠片も出さず、サンジは爽やかに笑った。

「仕方ないから買い出しはおれ達で行く?」
「そうだな。今から行くか?」
「うーん、もう夕方だからな〜」

そういうとルフィの腹が鳴る。
恥ずかしそうに笑って、ルフィはサンジを見た。

「そんじゃ、先にメシでも食いに行くか。買い出しは、そのあとだ」
「やったァ! ウソップも調子出ないみたいだし、やっぱり備品は今日中に買っておくんだな」
「……まァな」

実は子分想いのサンジにルフィは自然と笑顔になる。

「サンジは優しいよな」
「たまには妬けよ。おればっかり嫉妬しててイヤになる」
「な、なんでだ…もう。仲間想いはいいことなんだぞ? それにサンジが思ってるより、おれはヤキモチ焼いてるぞ」

突然、抱きしめられてルフィは赤い顔のままで、むくれた。

「今の態度は大変かわいいと思います」
「……ありがとうございます。買い物も行くなら着替えるから放してくれ」
「わざわざ? 面倒じゃないか?」

女装姿も可愛いので着替えてもらえると嬉しいが、別段いつもの格好が不満というわけではない。
サンジは名残惜しそうにルフィを放して訊ねた。
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