願い事の本棚

□もうひとつの5月4日
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「……」

人間、驚き過ぎると声も出ないらしい。
カーテンを開けると見知らぬ男が笑顔で手を振っていた。至近距離で。
何も驚くことはないように思う。しかし、ここはマンションの5階。
しかも、この近辺にこのマンションより高い建造物はなかった。
そして、ルフィの部屋にベランダはついていない。
状況を総合すると、そこに人がいるのはありえなかった。
重力を無視している。
人間は空を飛べただろうか。
ありえない。とにかく、ありえない。
爽やかな朝日の中、突然の非日常に硬直していたルフィは行動することにした。
開けたカーテンを再び閉める。

「よしっ!」

見なかったことにしよう。
せっかくのゴールデンウイークに早起きしたのが間違いだった。
勢いよく布団に潜り込むと頭上に見知らぬ気配がする。

「無視するなよ〜」
「っ!?」

聞いたことない声音。ルフィは飛び起きた。

「おはよう」
「……えっ?」

笑顔で朝の挨拶する男に混乱する。
窓の鍵は開いてない。
開いていたとしても、ここに人間が存在する理由にはならない。

(人間…じゃないのか?)

疑問が急速に解決しつつある。
人間じゃない。
それなら不可思議は不可思議ではなくなってしまうのだ。
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