願い事の本棚

□もうひとつの5月5日
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「考えてくれた?」
「う〜?」
「うんうん。じゃあ、ここにサインして」
「んー……って却下だ!!」

渡された万年筆をルフィはベッドに寝転がったまま、ブン投げた。

「あー! おれの万年筆がァ!! 普通に売ってるのとは訳が違うんだぞ!?」
「うるせェよ。寝起きにサインさせようとするとは怖ろしいヤツだな」

慌てて万年筆を取りに行くエースをルフィはじっとりと睨んだ。
契約用紙をしまいながらエースはにっこりと笑った。

「でも、予備があるから心配ないぞ」
「そんな心配してねェー」

その万年筆が契約とやらに必要ならへし折ってやろうかと思っていたが、予備があるのなら意味が無い。
背伸びをして、時計を見るともう昼になっていた。

「うあ…寝過ぎたな」
「不健康なんだから〜。男のコは外で元気に遊べ」
「あんな話聞かされてスヤスヤ寝れるか、バカ」

悪態をつきながらエースを見ると笑っている。
訝しげに見つめると、エースは嬉しそうに話した。

「ルフィは強いな」
「はァ? どこが?」

怖くて眠れなかったのに、どこが強いというのか。
ルフィにはエースの言う意味がわからなかった。

「あんな話をしても壊れない。変わらない」

それは壊れる可能性もあって話したのだろうか。唖然と見つめる。
満足そうに、ただ笑っていた。
背筋が冷える。
目の前の男は『人間』として何か欠けているのかもしれない。
いや、人間ではないのだからこれが普通なのかもしれないが。

「……壊れなくてよかったな。でも、壊れたらどうするつもりだったんだ? 契約なんてできないどころかお前自身を拒絶すると思うんだけど」
「ルフィはそんなことしない。壊れない核心があった。」
「自信があったんだ?」
「ああ。おれの言葉なんかじゃ壊れない。ルフィの魂は汚せない」

うっとりと見つめられて、ルフィは頬を引き攣らせた。
仲良い友達から予想もしないマニアックな趣味を聞かされた気分だ。

「はい、質問」
「どうぞ」

挙手したルフィにエースは先を促す。

「おれの魂が汚れたら興味なくなりますかね?」
「あ〜、どうだろ? 今さら汚れても関係ないかな」
「ああ、そう」

魂汚し作戦は考えるまでもなく失敗した。
魂の汚し方なんて知らないので根本的に無理があったのだけど。

「他には何かある?」
「あ〜、エースには魂が見えてるの?」
「知覚するのは意外と難しい。けど、見える」
「ふ〜ん。じゃあ、おれの魂は何色なんだ?」
「一色じゃない。状況によって変わるけど根本は変わらない。他人と似た色を彩ることはあるけど同じ色はない。全員、違う。だから、おれはルフィがいい。他の魂を探せと言われても困る」

先手を打たれて、ルフィは口籠もる。
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