願い事の本棚
□もうひとつの5月6日
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目を開けると自分のベッドに寝ていた。ということは眠ったのだろうか。
ルフィはゆっくりと身体を起こす。
時計に目を向けると午後2時を回っていた。身体が怠い、気力がわかない。
「……?」
昨日のことを上手く思い出せなかった。
気配を感じて、顔を上げた。エースが申し訳なさそうにルフィを見ている。
「悪い…おれが眠らせた」
「そう、なんだ」
「ルフィ、昼メシ食べるか? 昨日の晩も食べてないだろ?」
「……いらない」
独特の重苦しい空気に昨日のことをまざまざと思い出した。
(夢なら、よかったのに)
例え苦しくてもどんなにつらくても、悪夢は覚めるから。
水面に落ちた水滴の波紋のように、ゆっくりと悲しみに侵食されていく。
緩やかに、だが確実にサンジの死を実感していた。
実際に見たわけでもないのに。
それはエースの言葉を疑う必要ないことが心のどこかでわかっているからだろう。
サンジにもう会えない。この世界のどこを捜してもいない。
なぜか涙も出なかった。感情がコントロールできない。
せめて、泣き叫べたら悲しみを外へ追いやれるのに。
エースは困ったように立ち尽くしている。でも、構っていられなかった。
ベッドの端に寄り、膝を抱えて俯く。
「………ルフィ」
エースの気配が近くなった。顔も上げられない。
ルフィに触れようとして、エースは直前で自分の手を強く握った。
触れれば壊れてしまう。そう、思ったのかもしれない。
ルフィとは反対側のベッド端にエースは座った。
何も言わずに時間だけが流れていく。