長編パラレル本棚
□1.始まりと出発と別れ
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ルフィは生まれてから五年間ずっと自分の家を出たことがない。
監禁されている理由は人の悪意、幽霊、聖霊など普通は見えないモノが見えるから。
そのようなモノが見える目をこの村では『呪われた目』と呼んでいた。
この村では『呪われた目を持つ者は村から出してはいけない』という古い風習がある。
殺すことを考えた村人もいたが呪われた子を殺すと何が起こるか分からないと怖れ、監禁することにしたらしい。
伝承を盲信する村人たちのせいでルフィは村どころか家からさえ出ることは許されなかった。
物言わぬ見張り、頑丈な南京錠がある限りここからは逃げられないと実感させられる。
家の中に入って来れるのは兄のエースと捨て子のナミだけだった。
窓から見える景色と食事を運んで来てくれるナミ、話相手になってくれる兄のエースと過ごす時間だけがルフィにとっての楽しみだった。
「なあ、エース…おれって勉強する意味あるのか?」
ルフィに近づく大人は誰もいない。だから勉強はエースが教えていた。
そして勉強中にルフィは、ぽつりと呟いた。
「急に何言ってんだ?」
「字を覚えても使わないなら意味ねェじゃん。おれはここから一生……出られないんだぞ?」
「…そんなことねェよ。今は無理だけど絶対兄ちゃんがここから出してやる」
エースは強い眼差しで弟の目を見た。
「…そうだといいなァ」
しかし、弱々しく笑うことしかルフィにはできなかった。
村の大人たちの自分に対する態度を見る限り、ここから出るなど不可能に思えたからだ。
「ルフィ!エース!ご飯よ〜…早く開けてよね」
何か言おうとエースが口を開くと、背後でガチャガチャと鍵を開ける音がし、見張りに文句を言いながらナミが入ってきた。
「勉強は中断して、ご飯先に食べましょうよ」
「やったァ!エース、飯食おうぜ」
「…そうだな」
結局、エースは何も言えず、せめて楽しく談笑しながら食事をするしかできなかった。
***
ある夜、窓から見える満月をぼんやり眺めていたルフィの耳に微かな話し声が聞こえてきた。
「はァ、見張りも楽じゃねェっつーの。気味悪ぃよな」
「村長の命令なんだから仕方ねェよ…ま、面倒だけどな」
いつもは彫像のように何も言わない見張りがその日は珍しく会話をしていた。
ルフィは思わず聞き耳を立てる。