TEXT【relay】
□scene.1
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【魅上SIDE】
清々しい朝を迎える為にはそれなりの条件が必要だと考えている。
まず自分の使用する物や場所は常に清潔でなければならない。
朝の清掃は私の日課だ。小学生の時からそうしてきた。
特に大学は机や椅子も前にどんな人間が使ったか分からないのに消毒用アルコールなしに迂闊に座ることなどできない。階段の手摺りや花壇、男子トイレにも気を配りたい。窓ガラスが曇っていては気持ちも落ちつかないものだ。
清掃中の私に白い目を向ける者、嘲笑する愚か者もいるが、そんなことは信念を揺るがす程とるに足ることではない。
「ふう…」
清掃を終えて一息ついた。今日もいい仕事をした。
だがこうしてはいられない。朝の日課は清掃ともう一つ、清掃よりももっと大切な使命があるのだ。
*
「神」
陽光を浴びて輝く色素の薄い髪に目を細める。
りんと立つ姿も尊大げに上向いた顎も強い瞳も美しい、私の神。
「おはようございます」
そろそろいらっしゃる頃だと、と告げると「それはそうとして、よく毎回僕のいる場所が分かるな」と、私の神こと夜神月様は少し呆れたように言い放った。
麗しい…。
また鼻血が出そうだ。
だが堪えなくては。
「神、お荷物をお持ちします」
「いい。目立つだろ」
「昨日もお持ちしましたが…?」
「だから。毎日“先輩”に持ってもらってたら…」
先輩…!!
「!!…魅上!!鼻血!鼻血!」
しまった。
神が鞄からハンカチを取り出すのが見えて、咄嗟に止めようと手を出す。
「いえ、神のハンカチを汚すわけには…!」
「そうですよ、月くん。ハンカチなら私が。」
……。この声は。
「おや、ありません」
「何、見栄張ってるんだ流河。おまえが元々ハンカチなんて持って歩いてるわけないだろ」
「失礼ですよ月くん。ああ、飴の包み紙ならありました。これでいいですか?」
………。
無意識に眉間に皺が寄るのが分かった。
このふざけた態度の男は流河旱樹と言って、芸能人と同姓同名らしい。(私は芸能に興味がない)
明らかな偽名だ。神によるとこの男があの『L』らしいのだが、事ある毎に神に付き纏う…まるでストーカーだ。
勿論、私がいい印象を抱いている筈もない。
ふと私は男の足元に目を落とした。
な…!この男…!!
靴下をはいていないのか…?!
しかもズボンが床を引き摺りそうではないか…!
どんな意図があってこんな格好をする?!
信じられないことに神はこの不潔極まりない男にさも普通に笑いかけている。
何故…?!