novel

□奥様
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「奥様。」

「…奥様。
………リディアさん。」

「ぁ、はい!トムキンスさん。ごめんなさい。まだ慣れなくて…」

トムキンスの呼びかけにやっと気付いたリディアは真っ赤になって振り向いた。

そうだわ。あたし、奥様だった…

実感がなく何度も忘れてしまう。

「少しづつ慣れていけばいいんですよ。今日の分の手紙を置いておきます。」
トムキンスは微笑みながらキビキビした動作で役目をこなしていった。

そうよね。少しずつよね。
「奥様。新しいドレスが届きましたわ。」
メイドの言葉にまたもや動揺する。

あたしは奥様。そう奥様。「奥様。新しい家具はこちらに置いておきますね。」
「奥様。招待状がとどきましたわ。」
奥様。 奥様。奥様。

「奥様。お茶がはいりました。」
「はぁ!?レイヴン!あなただけはお願いだから名前で呼んでちょうだい!」

レイヴンは不思議そうにくびをかしげた。
「しかし、リディアさんは主人の奥方です。奥様にはかわりありません。」
「お願い!レイヴン。」

やがてレイヴンは頷いた。
レイヴンにまで言われるとなんだか本当に自分じゃないみたいだ。
背中がむずかゆくてしかたがない。
リディアはかるく疲労にみまわれた。
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