短編2

□毎日が駆け足
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「確認お願いします」



窓から浴びる暖かい陽射しに眠気を感じる今日。呑気な天気と同様に尸魂界は穏やかだった。藍染の反乱から数週間経った今、最近まで瀞霊廷内の修復や怪我人の手当てに各隊は追われていた。目に見える傷はほとんど癒えてはいるけれど、ただ皆どこか元気がない。
仕方のないことかもしれない。尊敬し信頼していた隊長達が三人も裏切ったのだ。私だってもし自隊の隊長が、と考えるだけで胸が締め付けられる思いに駆られるのだから。

そして今日、破面が現れたことにより、落ち着いてきていた瀞霊廷内は一気に緊迫した空気に包まれた。


「日番谷隊長」
「どうした?」
「少し、お休みになられては?」

あの日、隊長は生死に関わる程の大きな怪我を負った。隊長の力になりたい、と日々技を磨いていたにも関わらず、何も出来なかったことが酷く悔しかったのをよく覚えている。だからこそ彼が傷を癒している間に、隊長の分もカバーしようと張り切っていた。しかし隊長は数日後に執務室へと戻ってきた。そして古い付き合いだと云う雛森副隊長の様子をほとんど毎日見に行っている。彼女も酷い傷を負ったと聞く。心配する気持ちは私が思う以上だと思うけれど、私には日番谷隊長も心配で。


「無理を、なさらないで下さい」
「あぁ、分かってる」


もしかしたら隊長は、無理をしているつもりはないのかもしれない。だけど私には、日番谷隊長は時々一人で抱え込んでいるように感じられる。隊員たちには優しいし的確な指示も出してくれ、みんな彼を好いている。けれど私は、もっと隊長が私たちを頼ってくれればいいのにと思うの。そう言えれば問題はないのだけれど、言えない私も遠慮というか何か壁を作っているのだろうか。


「だがそうも言ってられねえんだ」
「?…もしかして、」
「破面の出現により明日から現世への出動が決まった」


掌に汗が滲むのが分かる。隊長の怪我は完治していると聞いた。だけど敵は破面…また怪我を負うのだろうか。隊長の力を信じない訳ではないけれど、無傷という訳にはいかないだろう。



「…日番谷隊長、私に…何か手伝えることはありませんか?」

だんだんと逸らすように顔は俯いていく。それが悔しさからなのか、不安からなのか理由は定かではない。ただ瞳に涙が溜まってきていることだけは確かだった。

「松本も現世に向かうことになっている」
「……」
「その間十番隊の指揮はお前に任せる」
「…はい」
「お前がいてくれて助かってんだ。だから…んな顔すんな」


私が心配されちゃいけないのに、やっぱり胸は締め付けられる。頼りにしてるんだ、という言葉は私が求めていたもので、隊長の力になれるんだと嬉しく感じた。
溜まっていた涙をごしごしと拭って顔を上げれば、隊長は掌に顎を乗せて少し照れたように目線を下に向けていた。普段ああいうことを言わないし、私も涙を溜めているせいだろう。きっと隊長のことだからこの涙の意味も察しているのかもしれない。


「日番谷隊長」
「あ?」
「十番隊は私が守りますんで、隊長はちゃんとここに帰ってきて下さい」
「…当たり前だろ、俺じゃなくて誰が座るんだ」
「約束ですからね」
「あぁ」








毎日が駆け足
(この想いはまだ胸に秘めておこう)



080608
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思いの外、堅苦しくなってしまった;

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