おおふり

□ワン モア プリーズ!
1ページ/1ページ


春はピンク色。
そんなイメージがあるのはきっと桜の花のせい。







「携帯って見つめてても掛んないの知ってる?何で掛けねえの?」
「慎吾にはカンケーないでしょ」


引退するまで毎日足を運んだグラウンド。まぁ引退してもちょくちょく手伝いに来てたんだけど。
ここのグラウンドは春になるとキレーな桜が咲くんだ。でも卒業式の今日、桜はまだ蕾のまま。

見たかったなぁ、桜。
去年はグラウンドをぐるりと桜の木が囲んでいてそれはもう絶景というやつで。利央とキレー!すっごいねー!って叫んでたっけ(慎吾にバカにされた)。


で、なんでその島崎慎吾にあんなこと言われたかと言うと、あたしが携帯見つめて、溜息をついていたから。それだけで勘のいい慎吾は気付いたらしい。




「慎吾はさー」
「おう」
「楽しかったー?桐青野球部」
「当たり前だろ」
「うん、あたしも。また皆で集まれるといーねえ」




慎吾も和も遠く行っちゃうし。ま、会えない距離ではないんだけども。
あたしも地元からは離れる。って言っても電車で一時間ほど。それでもやっぱり寂しいワケで。
だってさ、桐青高校の、野球部の思い出が多過ぎて、明日から違う生活を送ると思うと心にぽっかり穴が空いたみたい。



「みんなそう思ってんだろーよ」
「あはは、やっぱり?」
「じゃ、俺行くわ」
「……ん、」
「またな」
「うん、またね」





さようなら程、つらい言葉はないと思う。あれって、二度と会わないって言われてるみたいじゃない?だから、またなって言ってもらえて凄く心が安らいだ。



ピピ、と携帯のボタンを押す。
この人には、さよならもまたねも言っていない。別れを告げるのが辛くてここに逃げてきた。


高瀬準太。
桐青野球部二年エース。一年の頃から見てきた準太はあたし達が卒業することで三年になる。
和のミット向けてボールを投げる姿にあたしは直ぐ見とれた。そこら辺に準太のファンはいっぱいいるだろうけど、あたしはその誰よりも準太を見てきた(勿論マネージャー業もちゃんとした)。

初めて試合に勝ったときの満面の笑み、敗けたとき歯を喰いしばって涙を零す横顔、炎天下の下大粒の汗を流す姿、どんな準太も瞼の裏に焼き付いている。






『もしもし』
「…もしもし」
『……先輩?』


部員みんなの好きと違うって気付いたのはいつだったかな。
練習熱心な準太に伝えられる筈もなく(邪念になるでしょ)、とうとう今日まできた。




『卒業、おめでとうございます』
「うん、ありがとー」
『…どうしたんですか?』
「ん?何がー?」
『いつもの元気がないですよ』


ほんの少し会話しただけで気付くなんて流石。
…やだ、声聞くだけで胸が痛くなる。



「そりゃぁ、もう皆と会えないと思うとさぁ」
『へー、先輩も寂しいとか思うんですね』
「ちょっとー!どういう意味っ」
『はは、すみません』


後悔、したくないもんな。
あたしの性格上、言わなかったら絶対後悔すること間違い無し!
自覚してから一年半、今日で高校生活もおしまい。踏ん切りつけるなら、振られるなら、今しかないでしょ。



「あたしマネージャーすっごい楽しかった」
『俺も先輩いて楽しかったです』
「…みんなが、準太がいたから」

だから仕事が辛くても笑って出来たし、最後までやり遂げられた。



「ずっとね、準太のこと好きでさ意識してたんだよ」

汗を拭う姿に、挨拶する声に、いちいち心臓が高鳴っていたっけ。その度に、あーかっこいーなぁってバカみたいに思っていた。





「俺もいつも意識してましたよ」
「え…?じゅ、んた!?」


携帯から聞こえる声とは別に、後ろから重なるように聞こえて、振り向いたら制服姿の準太が(なんで!)。



「え、なんでここにっ」
「先輩のことですから(慎吾さんから聞いたんだけど)」


隣に座る準太の顔が見れなくて思いっきり顔を逸らしてしまう。だって直接言うのが恥ずかしかったから電話で言ったのに、今隣に準太はいて…!あぁ、落ち着けあたし!




「ね、先輩」
「ななな、なに!」
「ぷっ」
「ちょ、何笑ってるの!」
「だって先輩吃り過ぎ…くく」
「準太!(くそーっ)」


準太の笑いのツボは相変わらずどこかズレている。いやほんと気が抜けるよ。
はーっと息を吐いてコホンと呼吸を整える準太。




「ま、俺だって先輩にずっと惚れてましたけどね」
「え?」
「また来て下さいよ、グラウンド」








ワン モア プリーズ!
(…、すぐに来ちゃうかも)




2008,03,17
------------
なんだかんだ言って野球部は良く集まればいいと思う。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ