おおふり

□丘の上から見えるのは
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ひらり、ひらり、薄桃色の桜が散った5月頭。4月には綺麗な桜のトンネルだったあの道も今じゃ緑色。桜色のトンネルはほんの数日しか拝めなくて、空しいというか寂しいというか。ぶっちゃけ散るの早過ぎ。んで葉桜になるのも早過ぎ。
そんなこと考えながらわたしがいるのは、今では緑色になったトンネルを見下ろせる丘の上。葉の隙間から帰る生徒たちがちらほら見えるけど、いつもあっちは気付かないんだ。そんな場所にわたしはいる。


「――ねえ」

最近日が長くなったから夕日と葉桜がコラボすることはないんだあ。夕日だけでも綺麗だけど、何かと重なるともっと綺麗になるからね。そういえば今呼ばれたのってわたしぃ?


「おーい、聞こえてるー?」
「わあー高瀬準太じゃん」
「何してんだー?」

少し離れてるからお互い声が大きくなる。その前によく気付いたなぁ。
葉桜見てるー!って答えたら、高瀬準太はがさがさと一直線に急な斜面を登ってきた。さすが男の子。やんちゃなわたしでもこれは無理(パンツ見えるし)。
登ってきた高瀬準太に部活は?って聞けば今日はミーティングだけだと言う。うちの野球部強いんだよねえ、去年は甲子園行ったし。今年はこの高瀬準太が投手らしい。高校野球の好きなわたしは、こんな身近に投手がいて少しドキドキしていたり。ちゃっかり隣座ってくるし。


「桜がどーかした?」
「んー?枯れちゃったなあって思って」
「…あのな、これはフツー枯れたじゃなくて散ったって言うだろ」


そーともいう、と某アニメ風に答えれば、変なヤツって笑い出す高瀬準太。笑われるのは心外だけど、この方の笑いのツボはおかしいと聞いたことがあるから気にしない。

同じクラスになってまだ一ヶ月だけど、女の子に人気があるのは一年の頃から知っている。勿論この性格だし、男子にも好かれている。まあわたしは彼氏もいなければ好きな人もいなかったから、女の子がきゃーきゃー言う人に多少は興味持つ訳で(おまけに野球部だし)。今は心揺らぐ時期でぇ…決めてがないっていうか、うん(なくていいんだろうけど)(あー、恥ずかし!)


「ねー、高瀬準太って桜見たりする?」
「見るって言うかグラウンドにうざいくらい咲いてるから目には入るなぁ」


確かにうちの学校のグラウンドの周りにはこんなにいらないだろってくらい咲いてる。野球部やサッカー部はその中で練習してるわけだから、満開の桜の下でプレー出来るなんてそれはもう羨ましい。あたしは、部活は中学で全力出しきったから今は自称帰宅部。

「さっきから気になってたんだけど、」
「うん?」
「なんでフルネーム呼び?」

名前覚えてくれてるのは嬉しいけど。少し照れくさそうに言った高瀬準太には申し訳ないんだけどもぉ…いやぁ、特に意味はないんだなぁ。やっぱりフルネームっておかしい?でもあたし、くん付けするようなキャラじゃないし、ねぇ(悪魔であたしの事情)。

「…じゃぁ、高瀬準太くん」
「いや変わんないし。高瀬でいいよ」
「あ、花びら」
「ちょ、聞いてる?」


どこから飛んできたんだろ。まだ残ってたんだねぇ。
桜ってさ、すぐに散ってしまって儚いけど、その瞬間を一生懸命咲いていて、だから好きなんだあ。葉桜はぁ…薄桃色を奪うからあんまり好きじゃない。


「高瀬準太はどっちが好き?」
「(また)そりゃぁ…、隣に座ってる女の子、かな」


薄桃色の桜と緑色の桜のどっちが好き?って聞いたつもりだったのに予想外の返答。必死で頭をフル回転していると高瀬準太はがさがさと来た道を降りて行った。え、なに帰るの?どういう意味なの、今の。あたしの思ってる通りでいーのぉ!?

そんなあたしの気も知らないで、じゃぁなって手を振って背中を向ける高瀬準太は、なんだかえらくかっこよく見えた。



「高瀬準太ぁっ!」
「!」










丘の上から見えるのは
(あたしの返事はいらないのぉ!?)
(返事を聞いたときの高瀬準太の笑顔は一生忘れない)




080508
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外歩いてて思い付いた話。

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