おおふり

□祝福前の試練
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肌寒い10月、何か欲しいものある?なんて、聞いちゃいけないことを一昨年に学んだ。彼氏の誕生日を祝おうというあたしの純粋な気持ちを踏みにじり、見事その日のうちに食べられてしまった。野球とソレしか頭にないのか!ってムカついたけど、あたしだって嬉しいワケだし(何せ初めて)、あんな小動物みたい目で見られたら許すしかなかったのを今でも覚えている。だから去年は部活で使えるようにタオルをあげた。今年はどうしようかと頭を悩ます。そんな誕生日前の日曜日。


苦しい、と胸板を軽く叩くと、腕の力を緩めるどころか後頭部を押さえつけてくる。こんなことにはもう慣れっこで、離さないならいつもの様に思いっきり頭を叩いてやった。するとやっと唇を離してくれてその後は必ず痛ってー、って唸ってる。お決まりの展開。

「離さないからじゃんバカ」
「いーだろ!キスしたいんだからっ」
「じゃぁ、加減という言葉を覚えようか」

あたしの悩みなんて知るよしもなく、相変わらず盛りまくっている悠一郎。毎日遅くまでしている部活の疲れはどこにいってんだか。
今日みたい日は、部活帰りにあたしの家によく来る。自分ん家じゃ家族が邪魔するからって。分からなくもないけど、ぶっちゃけ時々邪魔が入ってくれればいいなんて思っているのは内緒。だって疲れるんだもん、悠一郎タフだから。


「なーなー、今年は何くれんの?」
「(…あぁ)まだ決めてない」
「俺なんもいらねー」
「……え?」
「そんかわり約束!」

まさかの発言に眉間に皺を寄せるあたしになんて気にも留めず、悠一郎はくるくる髪に指を絡ます。あたしは正面向いて、悠一郎は横向きという中途半端な体勢で隣にいるんだけど、約束という言葉にぐりんと首は回った。
(待って、それって強制?)
ろくなことじゃないと察して慌てて制止をかけた。


「それって拒否権は?」
「え!なに、嫌?」
「内容によるでしょ」
「んーじゃぁ無し!」
「…で、約束って?」

きらきらな瞳で喋られちゃなかなかきつく言えないのよね。さっきみたいキスのときはガツンとやるけど(だって死ぬ)、やっぱりどこか甘いかもあたし。
そんで悠一郎の言う約束は突拍子のないことだった。

「はぁ?」
「だから!来年も再来年もずーっと俺の誕生日におめでと!って祝って!」
「な、にそれ」

そんでいっぱいエッチすんだー!って…え?ぎゅっと抱きしめられ、拒むという行動を忘れ顔は強張った。
だって意味分かって言ってんの?それってこれからもずっと付き合ってるってことでしょ?いや、嬉しいよ。嬉しいけど、照れる。唐突なのはいつものことだけど、なにこれ。凄いドキ言ってる。

「な、約束だぜ!」
「一個、条件がある」
「条件?」
「誕生日の一週間前から禁欲生活ね」
「えー!!」
「するのは勿論、キスも触るのも禁止ー」

分かった?って問うと、絶対やだ!!と断固拒否された。予想通りの返事に少し苦笑。悠一郎の約束に比べるとあたしの条件は少し厳しいかな、って思うけどこっちの方が悠一郎も嬉しいと思うんだ。
あ…よっぽど嫌なのか涙目だ。

「ずっと会えなかったりすると凄く寂しいじゃない?あたしだって悠一郎が部活で忙しいときとか寂しいの」
「うん…」
「でも久しぶりに悠一郎に触れると、あー好きだなって再確認するんだ」

子供を宥めるように説得すると、だんだんいつものきらきらな瞳に戻ってきた悠一郎の眼。

「あたしの条件も一緒よ」

悠一郎はそういうの嬉しくない?返事はほんの数秒後。愛しさが溢れる寸前に恋人からおめでとう、ってあたしは好きだもの。
…あれ?その後襲われる道を辿る気がするけど…仕方ないか。


「一週間きったけど今年から実行しちゃう?」
「ヤダ!今からするもんねっ」
「え、ちょ!悠一郎!」








祝福前の試練
(結局今年はおめでとう、なのね)




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(081019)
すみませぐだぐだ!
そして遅れた!
HAPPY BIRTHDAYたじー!

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