短編2

□頭の中のアナタ
1ページ/1ページ



大きな木の日陰の中で心臓がドクンドクンと脈を打つ。初めての男の人からの呼び出しにさえ緊張しながら向かったにも関わらず、なんとその内容は告白ときた。

尸魂界で生まれてこのかたウン百年。告白されるなんて初めてで正直どう返事をすればいいのか頭は混乱している。それが今のあたしの心情。



「ずっと好きだったんだ」

なんて、こんなあたしを好んでくれるのは院生時代の同期である寺門くんこと通称てら。てらとは同じ組にもなったことがあって、まあ顔見知りと言うか普通に友達。だと思っていたのはあたしだけだったらしい(なんてこと)。
まさかそのような対象で見られてたなんて、もっとバカな一面を見せておくべきだったかしら。


だってあたしには好きな人がいて、てらの気持ちには答えられないんだから。



それになんだろう、この『フル』という感覚。なんだか凄く胸が締め付けられるんですが。
そしてフルんだ、というツッコミは無しの方向で。

告白する側は当然のようにドキ言うと思ってたけど、まさかされる側も同じなんて思ったことなかったもの。でも、断るなら断るでちゃんと言わなきゃ失礼だよね。


「あたし、てらとは友達でいたい…の、です」

段々小さくなるあたしの言葉に、そっか、と少し瞼を伏せたてらにまた胸は締め付けられた。
いや、あの、ごめんなさい申し訳ないです。


一人がっかりしていると、ふと影が出来て顔を上げれば勿論主はてらで、がしっと掌を掴まれた(何事!?)。

「じゃあ!一回だけでいいから、遊びに行こ!」
「へ?」


あれですか。諦める変わりにってヤツですか?いやあ、わたくし振った相手とお出かけーなんて、広い心持ち合わせていません。ということでまた断りたいんだけど、てらのこの眼差し…マジだ!困った、なんて言えば納得してくれるだろう。




「無理強いは良くないな」


思わぬ声に誰だと言わんばかりに勢いよく首を回せば、なんと背後には院生時代の先輩である檜佐木修兵さん(わあ)。
あまりに突然現れるものだから、てらも思わず後退っていた。あたしはと言うと相変わらずの整った顔立ちに見とれていた。


「あと悪りぃんだけどこいつ俺と付き合ってんだ。だから諦めてくんね?」


ぱちくりと目を点にしている間にてらは深々と頭を下げて立ち去っていた。

…なんとかてらのお誘いは断れたようだけど、さてどうしよう。この状況。断る文句なんていろいろあるだろうに、なんであたしと付き合ってる、なんて。肩に置かれていた掌が離れて、そこに熱が篭っていたのに気が付いた。


「檜佐木先輩?」
「おー。悪り、困ってるように見えたから断っちまった」
「あ、いえ。ありがとうございます!」


ドキ言っている心臓に動揺しながら一礼すると久しぶりだなあ、と髪をくしゃりと乱された。

檜佐木先輩は院生の頃一度現世の実習で先導にあたってくれた。あの、檜佐木先輩が顔に傷を負った原因の。あの日のほんの数時間しか顔を合わせていない筈だけど、覚えてくれてた?と思うのは自惚れかな。



「阿散井たちと同期だったろ?」
「は、はい!」
「まさかこんな再会するなんてな」

にっと笑顔を見せる檜佐木先輩に胸は高鳴った。
あの時、阿散井くんたちとあの場に残ったはいいけど、結局院生のあたしの力じゃ役に立てなくて、怪我を負った檜佐木先輩の心配ばかりしてたっけ。あれっきりこうやって会話することはなかったから、緊張する訳で。ついでに言うと頬が赤くないか不安だったり。



「あのさ、さっき言ったことだけど、」
「え?…あぁ(さっき、の)」

ふいっと視線を逸らした先輩は照れたように口元を隠してみせた。そして次に発せられる言葉であたしは彼から目が離せなくなるのだ。







頭の中のアナタ
(そうなれたらいい、なんて思ってんだけど)




----------
(081228)
お互い忘れられなかったんです。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ