短編2

□悪い子には痛い注射を
2ページ/2ページ


ばたん、音を起てて扉を閉めた修兵は恐ろしかった(何ってオーラが)。

日番谷隊長と虚退治の報告に向かった帰り、わたくし連れ去られました。いきなり現れた修兵は彼女の私でなくても分かる程怒っていて、多分少し日番谷隊長に苛立ちを向けているように見えた。きっと怒りの根源は私なんだろうけど(なんかした?)。あっという間に肩に担がれて、日番谷隊長に助けを求めても知らん顔。連れ去りを了承した本人が酷くないですか!なに、日番谷隊長は修兵が怒ってる理由分かったの?私どうすればいいの、空気ピリピリしてるじゃない(あぁもう泣きたい)。

「ねえ、何怒ってるの?」

背中向けられちゃ分からないじゃない。私人の心なんて読めないかんね。
返事をしない修兵に、肩を掴んで名前を呼べば、その手首を掴まれて壁に体を押し付けられた。両側には修兵の手、音がする程に打ち付けられた背中はじんじんと痺れを感じる。

「っ何するのよ!」
「お前が!あんな顔で笑ってるからだろっ」

いくら憧れてるからって俺にも見せねぇような笑顔見せてんじゃねえよ、だんだん小さくなっていく言葉に、修兵が怒っている理由が漸く分かった。少し不安げで、けどやっぱり怒ってて。なんて言えば分かってもらえるのかと、思考を巡らすけど、目の前の修兵を納得させるような言葉は浮かばない。だからと言って本当のことをそのまま言いたくない訳で。


「っ違う」
「何が違うんだよ」
「…言いたくない」


ぎりっと手首を締め付けられる。長めの前髪が影になって目は見えないけれど、歯は食いしばられていて。ズキン、胸が痛んだ。

「そんなに日番谷隊長が好きなら、」
「!」
「隊長んとこ行っちまえ!」

ぱん!乾いた音が部屋に響いた。少し遅れて修兵の小さな声が聞こえた。

「最低っ…!」

呆然とする修兵に消えそうな声でそう呟いて踵を返す。
なんで!あんなこと言えるのよっ!修兵は信じてないの?私は修兵と付き合ってるのに。好きだから修兵といるのに…なんで!なんで私が泣かなきゃいけないの、バカみた―!

「…っ悪い」
「離してっ」
「嫌だ、お前泣いてるだろ」
「修兵のせいじゃんか!」

ぐっと腕に力を込めてもここは男女の力の差、悔しいけど敵わない。それに力強く抱きしめられると怒っているのになんだか恋しい。だって一応会うの久しぶりだから、ケンカなんてしないでゆっくり過ごしたいもの。

「俺が怒ってるのはお前のせい(ついでに頬が痛え)」
「っ…修兵のこと話してた」
「どういう意味?」
「修兵のこと話してるとあんな顔になっちゃうのっ」


返事がないあたり、多分思考が追い付いてないんだと思う。これ以上揉めたくないし仕方ないから説明した。乱菊さんに言われたことを。
どうやら私は修兵の話をするとやけに笑顔になるらしい。幸せそうな顔をしているって言われた。だけど修兵本人にそんなこと知られるの恥ずかしいから言いたくなかったの。

「え、何すげえ嬉しいんだけど」
「ばかっ!」

体を離した修兵は照れたように口元を掌で被っていた。だから教えたくなかったのに!絶対調子に乗るんだからっ。
そしてやっと修兵は自分の勘違いと分かってくれたようで。ごめん、と小さく呟いた。そういうとこ治してよ、って答えると努力します、とのこと。本当に分かってんのかしら。

「…私、仕事戻るから」
「んな事言わねえでもう少しいいだろ」

そう言い終わるや否や首筋に唇を這わせる修兵…って何してんの!切り替え早過ぎでしょ!絶っ対反省してないっ!

「ん、ちょ…やめて」
「もう、少し…」

こうなるの分かってたから言いたくなかったのに!直ぐ自惚れて!もう我慢の限界、ガンッと大事〜なところを思いきり蹴りあげてやった。低い唸り声が聞こえたけどそんなの自業自得。

「おまっ…!」
「頭冷やせバカ!」
「おい!待っ―」
「勤務中っ!!」






悪い子には痛い注射を(後編)
(最近修兵のこと話さなくなったわねえ)
(知りません、あんな奴!)
(ケンカでもしたのかしら…)




----------
(080802)
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ