じゅんがーる!
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「檜佐木と付き合ってんのか」
恋愛事なんか聞きたくねえ、って思っていたのに、口からは自分のものではないように次から次へと声が言葉が出た。瞬間後悔してももう遅い。絡んだ視線はだんだんと離される。答えがないということは肯定を表すのか。そんなことさえ分からない。
「悪い、気にすんな」
ちょっと出て来る、そう告げて執務室を後にした。正確には、逃げ出した。自分で作った空気から逃げるなんて、吐き捨てるような笑いが出た。
だけど聞かずにはいられなかった。こんなにも一つのことが気になる衝動にかられるのは初めてで、隊長という肩書きがなかったら俺は…。
アイツのことを知りたい、なのに行動は矛盾の二文字。折角問うたと言うのに答えを聞かずに出てきた。バカだぜ、ほんとに。
「隊長失格…か?」
澄んだ空を見上げ呟いた。
きっと待ち侘びていたであろう虚退治の任務をやっと与えたのに、動揺させるようなこと。俺の思い過ごしならいいが、あの態度を見る限り俺の考えは恐らくあたっている。だが、今の俺には任務に支障をきたさず、無事帰ってくることを祈ることしか出来ない。
情けない、ただそれだけ。
(もうすぐ時間だ)
執務室に戻ると沖野と談笑する二人がいた。会釈する二人、恐らく初めて顔を合わすのだろうが、様子を見る限り上手く組めそうだ。
席に着くとぱたぱたと駆け寄ってきた。
「日番谷隊長…」
「…虚に関する情報だ。目を通しておけ」
はい、小さく返事をし沖野にも見せようと元の場所へ戻っていった。
こんなときになんだが、失敗したと思う。不可抗力とでも言うのか、資料を見る為に顔を寄せる沖野や、頑張ろうと無邪気な笑顔を見せるアイツに無性に苛付いた。負担を減らせれば、と沖野を選んだのに女の隊員と組ませれば良かった、なんて勝手な独占欲。
やっぱり、こんな気持ち持つべきじゃない。
「隊長っ行ってきます!」
「あぁ、気をつけろよ」
何度も虚退治の経験がある沖野と九番隊で活躍していたアイツなら失敗することもそうないだろう。沖野もそう考えているのか、表情は明るい。
それと真逆なのはアイツ。襖辺りにいる沖野を余所にまた俺の前に駆けてきた。廊下に出ているよう沖野に告げるとは、何を言われんだか。
もっともこれは俺の台詞ではないのだが。
「日番谷隊長」
「なんだ」
「わたし、修兵さんと付き合ってませんよ」
「な…」
「それじゃ行ってきます」
淡々と発っせられたそれは、次の俺の行動を少なからず遅らせた。咄嗟に名前を呼んで引き留めると、とんでもなく驚いた顔をしている。
どっちかって言うと俺がその表情をしてやりたい(というのは置いといて)。
「怪我すんなよ」
「―はい!」
満面の笑みを見せて部屋から出ていったアイツに心はすっかり晴れていた。
それが疑問の答えが返ってきたからか、笑顔を見れたからかは分からねえが。少なくとも、俺が口端を上げていられるのはアイツのお陰だ。
ったく、負けてらんねえな。
こんなにも熱い
(影響され過ぎだかんな)
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(090321)
久しぶりの更新…!