捧げ物小説

□無敵のヒーロー
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「…、かっこいー…」
「ヘ?あ、浅野啓吾?」
「ちっがうよっ!」


あたしの視線を追ったのであろう友人であるカナコの発した、クラスメートの名前に全否定した(確かに近くにいるけれど!)。




外で授業を受けるには寒すぎる冬の体育と言えばバスケットボール。体育館で男女が分かれてそれぞれが試合を進める中、休憩中なあたし。


そして、目の前のマジな女子の試合よりも目がいくのは、奥のハイレベルな男子の試合。その中でも一際目を引く、小柄で、素早くコート内を動く彼。

ドリブルさせれば三人抜きなんておてのもの。パスは正確、おまけに持っている時間が極端に短いから相手は反応が遅れる。シュートも九割方入っているんじゃないかと思う。とにかく全ての動きが授業の域を越え、早過ぎるのだ。

こんなものを見せられては誰だって見惚れるでしょう。




「分かった!日番谷だ」
「しーっ!声でかいっ」


アンタもでかいよ、と突っ込まれ慌てて口を閉じる。皆試合に夢中で誰にも聞こえていないだろうけど、万が一本人の耳にでも届いたらあたし明日から学校来れない。


そしてカナコの言う日番谷、もとい(あたしの中の)スーパーヒーロー・日番谷冬獅郎。
彼とはクラスメートで殆ど言葉を交わさない程度の仲。ポーカーフェイスな日番谷は女子と喋ることも少なくて、そんな彼を何故スーパーヒーローと呼ぶかというと大した理由はない。

ただ、日番谷冬獅郎のバスケ姿に惹かれただけである。


好きとかそんなんじゃないと思う。男子との会話数の少ないあたしはクラス内の雰囲気や態度で彼らを見ているから、あの人面白い、ちょっと苦手って勝手な判断をしているのだ。


だから日番谷の場合
(バスケしてるときかっこよさ倍増なんですが!)
となるワケ。普段からクールな日番谷にかっこいいと感じていたものの(男はオーラ派)、スポーツするときの彼は格段なのだ。

まぁ全てあたしの意見で、偏見も混ざっているのだけれど。





「はぁ、きつ…っ」


自分の試合を終えて休憩の合間に水分を摂ろうと給水機ヘ向かう。

運動神経がさほど良くないあたしはひたすら走り回っているせいか喉はカラカラ。バスケ部に所属していれば少しはマシだっただろうか。



(!スーパーヒーロー…!)

給水機には先客がいた。少し離れたところから聞こえる躍起な声とは逆にしん…としているこの空間。

とりあえずシャツで汗を拭う姿はピカイチだ。



「あ、悪り」
「っ、ありがと…」

少し言葉を交わすだけでドキ言うのは、男に免疫ないだけであって日番谷だからじゃないと思いたい。

そして、何か見られているような気がするのは気のせいでしょうか。飲んでるときって見られたくないんですが。



「大丈夫か?」
「ヘ…」
「お前かなり走り回ってるから」


走ることしか出来ないもので…苦笑しながらそう応えると、日番谷は瞼を伏せめがちにあー…と呟いた。なんか申し訳ないんだけど。



「たまに一人でシュート練してるだろ」
「!」
「……汗、」


ぽつり呟いたかと思えば伸びてくる腕。何事かと思いきや、持っていたタオルで首筋の汗を拭ってくれたようだ。
今日の日番谷は心臓に悪い。


「なんで知って…」
「この前見かけた」
「うわ、恥ずかし」


声掛けてくれてもいーじゃんとは言えず、ただ運動後の熱と一緒に頬はほてっていた。

授業中のあまりの足手まといさに悲しくなり、確かに運動部が体育館使わないときに練習していた。数える程のそれを見られていたとは…(よりによって日番谷に)。



「別にいいじゃねえか」


くるっと振り返った日番谷はそう呟いた。何がいいのか意味が分からずあたしは疑問符を浮かべる。
頭からタオルを被った日番谷の表情は見えないけれど、相手を見ないのは珍しいと思った。


「俺は、苦手でも努力するヤツ好きだけど」
「え……」
「じゃ、頑張れよ」


背中を向けてひらひら手を振る日番谷に、ありがと!って少し大きい声で叫んだ。
驚いたように振り向いた日番谷は柔らかく微笑んで、そのまま体育館に戻っていった。

小さな背中に今にも飛びつきたい衝動に駆られた。
本当日番谷って…、


「スーパーヒーローだよ…」










無敵のヒーロー
(あの笑顔は反則だ)




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(090218)
二周年フリリク企画
愛月桜音様に捧げます。
リクエスト有難うございました!

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