捧げ物小説

□変わらないのは
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付き合ってみないと知らないことって多々あると思う。
例えば名前で呼ぶと柔らかい笑顔を見せたり、何気心配性だったり、冷静な性格とは違って行為は熱かったり。あたしにしか見せてくれないんだと思うと照れ臭かった。

まだ、肩抱かれて寄り添うように話すだけでもあたしには恥ずかしくて、キスするのすら照れているのに、初めてのときは顔が熱くて熱くて仕方なかったのを今でも覚えている。ぎゅって抱きしめられるのは嬉しいし、あたしも抱きしめ返すけど、鼻の頭がぶつかりそうな程至近距離に顔があるとき、つい逸らしてしまうのはいつものこと。


(俺だからいいじゃねえか)


いつだっかそう言った冬獅郎は、照れまくるあたしを面白そうに見ていた(こっちはドキ言い過ぎて苦しいのに)。
そうだけど…っ、と言葉を濁すあたしに冬獅郎は可愛い、と呟いてキスをひとつ落とした。その言動にも照れていることを冬獅郎は気付いていない。いや、冬獅郎のことだからわざとかも。




「とーしろー?」
「あんだよ」
「眉間に皺寄ってんよ」

昼食時間、人気の少ない隅の教室。いつもここでお弁当食べてるんだけど、この教室に来るときには既に不機嫌モード全開だった。
まぁ、理由は分かってるんだけど…。

付き合って知ったことのひとつ、思いの外ヤキモチ妬きだということ。そのことで喧嘩することも少なくない。



「ごめんってば」
「何回目だよオマエ」
「でも、ちゃんと離れてるじゃん」
「(素で照れてるからだろーが)」


説明します。ひとつ前の休み時間、クラスメートの男子に後ろから抱きしめられました。あたしが距離近いのダメだって分かってしてくるから、いつものように照れるー!って言って体を押し返した。
それが冬獅郎は嫌らしく、毎回喧嘩というか怒られるのだ。

ヤキモチ妬いてくれるのは嬉しいけど、冬獅郎的には隙見せんなとのこと。



「どーしたら機嫌治る?」
「(俺以外に触れんなとか言いてーけど、)キスしてくれたら」
「っ…!」


キスされるのにドキ言うあたしは勿論自分からキスなんてしたことない。それなのに、それなのに冬獅郎は!

ほら、と目をつむる冬獅郎は時々意地悪になる。長い睫毛に白い肌、綺麗な顔立ちにいつも見惚れる。床に向かいあって座っている冬獅郎は早くしろと言わんばかりに名前を呼んだ。


膝をついて両手で体を支えてそっと唇に触れる。
瞬間、手首を取られて気付くと冬獅郎が寄り掛かっていた筈の壁をあたしが背にしていた。状況は飲み込めていないけど、冬獅郎の瞳にはあたしが映っていて、引き込まれてしまいそう。視線を逸らそうとすると頬に手を添えられた。


「逸らすなよ」
「っき…げん、直った?」
「あぁ、合格」


押さえらんなくなっちまったけど、そう続けて冬獅郎は唇を重ねた。あたしの触れるだけのものとは全くの正反対で噛り付くようなキスに息はあがる。

苦しいと言わんばかりに胸板を叩くとゆっくりと離れていった。当然のように眼は合わせられない。
息を整えようと呼吸を落ち着かせようとすると、その間にブレザー、カーデ、シャツと隙間から手を忍び込ませる冬獅郎。ひんやりと冷たい指先に思わず声が漏れる。


「っ…と、しろ!」
「んだよ、止めんなよ」
「止めるよ!ここ学こ…んっ」

首筋に痕を付け出す冬獅郎はあたしの制止も聞かずに胸に掌を重ねる(ていうか揉んでる!)
廊下の奥からは昼食を済ませた生徒の賑やかな声。こんなとこ見られたら…と思うと一気に顔は熱を持つ。それに気付いてか触れるだけのキス。


「俺以外に触れんじゃねえ」


小さな小さな声で呟かれたそれは、この至近距離だからこそ聞こえた。

照れ臭くて言葉には出来ないけど、冬獅郎がいれば世界は廻る。
大袈裟かもしれないけれど、そう思えるんだ。










変わらないのはここもだから
(っでも!今は駄目でしょ!)




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(081221)
奈々様に捧げます。
37037HIT有難うございました!

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