☆文章☆

□●夜の夢●
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夢を見た…悪夢を…。
「アクセス!!」
その言葉を最後に彼は…ネスは光の中へ消えてしまった。ううん…ネスがあたし達を光の中へと連れ出したと言った方が正しい。
「ネスー!!!!」
目の前の美しい光を放つ大木に叫ぶあたしの声。
ネス…あたし達旅に出てから、いっぱい傷ついて泣いて許しあって助け合って…喧嘩して仲直りして…かけがえのない存在になれたと思ったのに。
行かないで…行かないでよぉっ…誰があたしを叱るの?誰が、君はバカかってハッキリ言ってくれるの?!
行かないで…あたしの大切な人―――――――

「起きるんだトリス!!!」
「…っ!!」
ベットで丸くなりながら困惑している少女を、肌の白い青年がほぼ強引に揺さぶり起こした。
「君は寝てても騒がしいんだな…」
飽きれた調子でネスティは目の前で呆然とし続けるトリスを見つめる。
あぁ…そっかぁ…。彼女は思い出す。大悪魔メルギトスの侵略を防ぎ、ネスは長い眠りから帰り、今はこうして側にいる。「トリス?」
ネスが戻ってきてからまだ一年…。一緒に暮らしている…必ず側にいる。
「わ…すごい汗じゃないか!!ほら、とっととシャワーを浴びに行くんだ。」
けど…これからもずっと一緒にいられるの?そんな保証どこにもないじゃない…。
「おい!!寝ぼけるな!!起きろ!!」
「ネス…。…ネスッ…。」存在を確認するかのようにトリスはネスティの頬に手をあて、そのまま彼の首へ腕を絡ませる。ぐっと近くなる距離。近すぎるくらいのこの距離は密着というべきだろう。
ネスティは、驚きと恥かしさでほぼ混乱していたもののなんとか理性を保ち、トリスのしっとりとした猫のような毛並の髪を撫でる。
「どう…した?」自前の嫌味さえ思いつかない。
「いなくならないで…。」
「え?」
「夢を見たの…あの時の…。」
ネスティは察しが早かった。
二年もの眠りによってトリスを放ったらかしにした事、彼女にどれだけ苦痛を与えただろう…。大切な人が側にいない時間がどれだけ永く恐ろしいものか、ネスティも感じた事がある。
ただそれは、脱走する目の前のやんちゃ者の帰りを心配する程度だ。トリスは待っていた。ずっと、ずっと…。何時帰るか分からないのに…。
「いるよ、側に。」
「だって…突然…だったじゃない。じゃあ、今度も…。」
突拍子もない言葉であるが、ネスティはちゃんと答える。
「今度はないよ。あると仮定しても、君は最後まで僕についてくるだろう?なら離れない。」
「ん…。」
落ち着いてきたのか、トリスはネスティに体を預けたまま、また紫色の瞳をとろんとさせる。

本当に…心配させていたんだな…。眼鏡の奥からとても優しい黒い瞳を、今にも眠りそうなトリスに向けて、ベットの中へと彼女をいざなう。

僕は…君を守りたいだけだったんだ。
だけどそれが君を悲しませるとは、思いもよらなかったよ。
…ありがとう、トリス。もぅ、二度と君を悲しませないから…。

誓いをたてる、それは大切で汚れの無い儀式の様に、彼は自分の唇と安らかに眠る愛すべき彼女の唇を、静かに合わせた。
ネス…好き…ずっと一緒に…。
トリス…好きだよ。ずっと一緒に…。

二人の願いはただひとつ。
愛する人と共に生きる事。
その日の夜以降、彼等は共に寝床へ向かうのが、習慣となったという。

〜fin〜
 

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