☆文章☆

□●始まる過去●
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あ…れ…?
あたし…何やってるんだろう…。家に帰らないと…。

アメジストの様に、煌めく瞳をもった小柄な少女は、焼け野原になった土地を見渡しながら考える。街がなくなってしまったのだ。一瞬の光と轟音で。
ふらふらとおぼつかない足を何とか動かし、少女は自分の家があったと思われる瓦礫の山を見て、立すくんだ。

「は…はは…。」
薄く笑みを浮かばせ、声は笑うが目は何も表情を浮かばせてはいなかった。少女は地面に頭を擦りつけて身体をうずめる。
嘘…嘘…嘘嘘嘘嘘!!!こんなの…こんなの…って…。
はっと少女は目を見開いて思い出す。
光の前…綺麗な宝石拾ったっけ…。あぁ、きっと神様があたしがそれを盗んだって思ったんだ…。だから…。

少女は空が紅く染まり、夜の暗闇が辺りを包んでも、そこを動かない。
…いや、他に生きる術を知らないのだ。動けるはずがない。

「…おい…。」
少女は草を踏む微かな音と、低い男の声で我に返った。辺りは月明りだけが光となって、照らしている。少女が顔をあげるとほぼ同時に、男の手が少女の細い腕を掴みあげた。
「いっ…!!?」
「まだ子供じゃないか。」
「魔力があるのか?」
「微弱だが…街を消し去ったのはこいつだ。」
数人の大人達が、奇怪なものを見るかの様に、少女をとりまく。
怯える少女。自分がどうなるのかなど、考えられない内に鉄格子のついた馬車へ放り込まれた。
少女、トリスはこれから始まる日々と運命的な出会いをまだ知らないでいた。
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