☆文章☆

□●一夜の想い●
1ページ/2ページ

もう人々が深い眠りについたであろう真夜中に、羽の生えた少年はゆっくりと生意気そうにつり上がった瞳を開く。白いカーテンからは月明りが線を描いていた。気怠そうに上半身を起こすと、すぐ側に人の気配があった。
まだ少女と呼ぶべきか、羽の生えた少年バルレルは静かに寝息をたてるその人物を見つめる。
ニンゲン…トリス…俺を喚び出しやがった、最悪な奴。
…けど…こいつは嫌な奴じゃねぇ…。俺をモノとして扱わない。サプレスの悪魔達を従えていたバルレル様を、こんな姿にしやがったくせにのほほんとして…事の重大さを分かってんのか?
少年はため息をつく。彼はもう永いこと生きている。普通の人間では考えられない永い年月を生きてきたのだ。
とてつもない魔力を持った荒くれ者は、楽天家のニンゲンの小娘に召喚された挙句、召喚術により、契約を強制的に結ばされこの子供の姿になったのだ。
いつか…向こうに帰る日が来たら、こいつは泣くかな…?
ふとそんな思いにふける。いつかは離れる日がくる。トリスの寿命通り共に生きたとしても、バルレルは取り残される。
こいつがいなく…なる。小さなごつごつした手で、トリスの髪を撫でる。髪から顔へ、さらに肩に触れていく。細い肩は力強く握れば砕けてしまいそうだった。
「ん〜…。」
トリスの血色の良い唇が小さく動いた。
バルレルは隣りで寝ている人間が愛しいと感じた。悪魔にとって嫌いな感覚であるはずの感情。今では苦しい程、独占してやりたいと思う。
…この俺が…こんな小娘に…?

理屈では通らない、力だけではどうにもならないことを、バルレルはトリスの横で見て来た。人間は回りくどい事ばかりやる、頭の悪い生き物という認識をさらに深めたが、その裏には他人を思えばこそだという事実に彼は驚愕した。
だが、今まさに自分がそれを体験している最中だ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ