☆文章☆

□●繋いだもの●
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裏路地を女性が一人で走ってくる。そのやんちゃぶりからは、到底女性という上等な呼び方は出来ないが、歳はちゃんと女性といえる。
猫目をキラキラに輝かせて、猛スピードで走る彼女の目に映るものはただひとつ。

蕎麦処、あかべこ。

「大将〜〜〜〜〜〜〜!!!月見ソバ温かいの!!!」

店の横開きのドアを乱暴に開けると、大声で注文をするトリス。幸い、店にはシオン大将以外誰もいない。
「おや、トリスさん。」
相変わらずおっとりとしたシオンに、トリスは鼻息を荒げてカウンター席へ座る。なにやらムスッとした態度をしている。
「ちょっと聞いてよ!もぉ!本っ当、腹立つ!!」
「何かあったんですか?」
シオンはまた例の兄弟子の事だろう、と思い注文品の月見ソバ、温いの!を作り始めた。
シオンが背を向けていてもお構いなしに喋るトリス。
「だって、ネスってば…―――――――――――
それは数時間前。
トリスはギブソン、ミモザ邸のテラスにて兄弟子のネスティと座っていた。幾度となく死闘を繰り返してきた彼女は、充分に召喚師の経験値や応用力は身に着いていたものの、お陰様で知識の方はすっからかんであった。見兼ねた兄弟子は基礎的なものから学習させる為に、できの良い先輩2人のいる中で勉強をする作戦にでた。

せっかくの強力な魔力を持っているのに、使い方がわからなくちゃ意味がない。
兄弟子の切実な願いに、懸命に答えようとする妹弟子…だが…。

「…っ君は「バカか!?でしょ?もう20回目よ?。」
「そう思うのであれば、6回も同じ間違いをするな!」
「まだ5回目だもん。」
「どうでもいい!!さぁ、またやり直す!」

学習を始めたわずか1時間の間、この繰り返しだった。予想以上のできの悪さにグラマラスな眼鏡の姐さんは、苦笑いを浮かべる。
「トリス本っ当勉強してなかったのね〜!」
「ミモザ先輩〜;」
「泣き言言わずさっさとやるんだ!!」
ミモザに話しかけられたものの、すぐにネスティが遮断した為、トリスの逃げ道はどこにも無かった。
そして3時間が経過し、ある苦しそうに鳴り響いた音で、トリスの集中の糸が切れた。
「ぅああああっ!!だめ!!お腹空いたっ!!」
先程の音は、この勉強会の張本人トリスの腹の虫だった。けれど、お昼もとらずに集中し続けてもう2時を回るところだ。無理もない。
「ははは、じゃあ昼ご飯にしようか。」
そう軽く笑って、提案するギブソンがトリスは菩薩の様に輝いて見える。さすがのネスティも尊敬する先輩には意見出来ず、短くため息をついて頷いた。
「あ、あああたしパスっ!!じゃね〜♪」
「え!?ミモザ先輩?!!…行っちゃった…。」
ミモザはギブソンの発言に挙動不信になりながら、その場を離れて消えてしまった。
「まったく、慌ただしい人だ。さ、気にせず昼ご飯をとろう。待っててくれ。」
ギブソンはふふっと乙女チックな微笑みを見せて、嬉しそうにテラスを出た。


そして、トリス達の前に置かれたものは…
「うっ!!ギブソン先輩…これ………;」
甘い香り、苺と生クリーム、極めつけは通常の大きさではないホールのお菓子…ギブソンの大好物でもある。
「ケーキだけど…どうかしたかい?」
サラリと言うギブソン。

お昼ご飯がケーキ?!そこまでして好きなんですか…??

トリスとネスティは顔を見合わせる。

「あーっもぉ!!いただきます!!」
先程からの空腹に耐えられなくなったトリスは、やけくそになりながら3段に積み重なった、でかいケーキにかぶりついた。
「トリス!!行儀悪いぞ!!」
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