頂き物
□虚様より
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〜放課後課外授業〜
カサンドラから受けた傷も完治して、ようやく現場復帰を果たしたアランを待っていたのは、友人の裏切りだった。
標的の少年を護るために、昼夜を問わず、張り詰めた空気を放つ友人を、遠くから見ることしかできないアランに、ヘムルートは冷淡なまでに笑って、任務を言い渡した。
標的の少年と、ケヴァンを始末する。
それが、アランの今の任務だった。
だった、はずなのだが……
「だからさ、日本語はヨーロッパ語族の言葉とは違うんだって。主語が先頭なのは一緒だけど、先に目的語とかがきて、最後が動詞。わかる?」
放課後の教室で、ケヴァンの肩に手を置いて、内海は、“一ヶ月でマスター日本語会話”の本を指差し、熱弁を奮っている。
「この文、並べ変えてみな」
「……この花は夏に咲きマス?」
投げやりながらもきちんと教える内海と、生真面目な性格から真剣に教わるケヴァン。
その様子を、アランは窓の外の縁にしがみついて伺っていた。
正直、あのケヴァンが、アイザックのような“変なガイジンの日本語”を話すのを聞いて、ショックを受けていたのだが、そこはプロらしく、気丈にも耐え偲んで過ごした。
「お前、何ヶ国語も話せるのに、日本語は苦手なんだなぁ……」
内海は一息着こうと、ペットボトルのお茶を口に含む。
その間も、ケヴァンはテキストを眺めて、発音を練習している。
「一番手っ取り早いのは、目を見たら話せるようになることなんだけどなぁ……」
「少しわかる。内海の言っているコト」
ゆっくりとした日本語で、ケヴァンが言うのを聞いて、内海がOKサインを作る。
「なかなかいい感じじゃん。ってか何? 俺の言うことわかるの?」
「少しだけ。俺のはわからないのか?」
今度はスペイン語だったのだろう。内海の耳には馴染みのない言葉が飛び込んできた。
「あー、ごめん、何て?」
ケヴァンの肩に触れると、彼は苦笑して、
「まだまだ完全な意思疎通には時間がかかりそうだな」
「……そうだな」
と、内海が困ったように笑ったところで、奏がコンビニの袋を抱えて、教室に入ってきた。
「おっかえりー」
「ただいま。どう? 進んでる?」
近くのコンビニまで買い出しに行っていた奏は、うっすらと汗を浮かべている。