西へ東へ

□一寸先
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ここ数ヶ月かけて追っていた過激派攘夷浪士たちをいよいよ逮捕する時がきた。


連中は名前を持たない浪士集団。
元は別の組織で穏健な攘夷活動を行っていたが、思想の違いを理由に脱退した連中が集まって出来た集団である。

大使館への放火や、幕吏数名に重症を負わせたりと、ここ最近目立つ行動を起こしていた。


真選組が捜査を引き受けることになって捜査を進めていく内に、山崎が連中の隠れ家を突き止めた。それまではよかったが、俺たちの存在に気づいた奴らは、見張っていたビルから逃走。

その後の必死の捜査で、すぐに連中の第二のセーフハウスは見つけることができたからよかったものの、失態を犯した山崎はぼこぼこにされた。――俺の手によってだが。


そして、セーフハウスを見つけた二日後、すぐに連中が頻繁に出入りしている武器商人の隠れ家も突き止めた。

どちらも今真選組密偵が張り込んでいる。


密偵の報告によれば、どうやら連中は武器を集めている様子。近々どこかへまた襲撃に出るようだ。となると、黙って見ているわけにはいかない。
襲撃前にこちらが隠れ家へと出向いて、一気に取り締まらなければいけない。


連中が武器商人に会いに行くのは、決まって木曜午前二時。
浪士集団の中から交渉役と荷物を運ぶ者、全部で6名が出向くことになっている。ちなみに浪士たちは20名ほどからなる集団だ。

そこで、俺たちは午前二時に、武器商人の隠れ家と浪士たちの隠れ家、この二つを同時に取り締まることにした。
そうすれば力も分散され、武器商人たちも一緒に取り締まることができる。


しかし、力が分散されるのはこちらも同じ。うまく班を分けなければいけない。

そこで何度も会議を行った結果、近藤さん率いる班が武器商人の隠れ家、浪士集団の隠れ家が俺と一番隊を中心とした班に決定した。



――そして、木曜日。



人の中に隠れるのが一番身を隠すのに適していると知っているのか、連中の隠れ家は繁華街の中にあった。
そのため、ばれないようにビルを囲むのには時間がかかった。

屯所を出たのが1時過ぎ。
そして、すべての準備が整ったのが先ほど、1時45分。


腕時計で時刻を確認してから、向かいのビルの様子を伺う。

辺りは繁華街ではあったが、夜の街というよりもファッションビルが集まる場所。
すでにビルのほとんどは閉店していて、開いているのは路地裏のバーや小さな居酒屋だけ。
人通りは少なかった。


浪士たちの隠れ家は、10階建てのビルの8階から10階のフロアだった。
ビルの持ち主に捜査が入ることはすでに連絡済だ。

1階2階はバーだが、どちらも12時までの店なので客は12時すぎに帰り、先ほど店員も帰って行った。3階から6階までは運のいいことに漫画喫茶を改装中で人はいない。

7階はスナックが入っていて、そこはまだ営業中のようだが、変装した隊士をもぐりこませて様子を伺ってみると、1時半に客が出て行ったきり入っていく者はいない。


俺と二番隊は、ビルの向かいにある喫茶店を貸しきって、ブラインドを下げた店内で息を潜めて突入の合図を待っていた。
屋上には、総悟率いる一番隊が。そして六階の改装中の漫画喫茶には、三番隊と四番隊が。
それぞれ無線でやりとりをしながら、待機している。


時計の針が1時50分を回った時だった。


ブラインドの隙間からビルの様子を伺っていると、一人の女がビルに入っていった。

紫色の着物に藍色の羽織を着た女は、まっすぐエレベーターへと向かうと、上のボタンを押した。二つ並んでいる右側のエレベーターの扉がすぐに開いて、乗り込んだ。

顔は始終俯いていたせいではっきりと確認できなかったが、7階のスナックのホステスだろうか。
そういえば、1時半頃に酔っ払った客を送るためにホステスがビルを出て、近くの立体駐車場の方へと歩いて行ったが、その時のホステスと着物が同じだ。

てっきりアフターへと出かけたのかと思っていたが、どうやら駐車場まで送り届けただけのようだ。


俺の隣でブラインドの隙間から様子を伺っていた山崎が、目を細めて言った。


「ホステス……ですかね?」

「そのようだな。さっき出て行った女と着物が同じだ」

「客を送りに行っただけだったんですね。もうそろそろ店も閉店時間でしょうし」

「店の閉店時間は何時だった?」

「二時です」

「突入の時に出てきて邪魔になったりしねーだろうな?」

「一応ビルの管理室でエレベーターは止めてもらいますし、突入時に隊士一人店にやって、事情を説明して鍵をかけて店内で待機してもらう予定です」

「今すぐ店を閉めて出て行ってもらうように話しをつけてきたらいいんじゃねーのか?」

「どうやらあのスナックに攘夷浪士たちも出入りしていたようで。繋がっていないとも限らないので、事情聴取もしておいたほうがいいと思って」

「なるほどな。それもそうだな」


なんとなく先ほどのホステスがひっかかった。

ビルから出て行った時と、今入っていったホステスに違和感を感じる。
頭の中で間違い探しをしようと記憶を引っ張り出すが、意識して見ていたわけではないので、ぼんやりとした記憶しか蘇ってこない。


「おい、念のために今のホステスがどこの階で止まったか、6階エレベーターに待機してる隊士に聞いてくれ」


はいと答えた山崎が、すぐに無線で連絡を取る。
すると、無線から「7階です」という短い返答があった。


「やはりホステスか」


考えすぎだったかと思い直して、ビルに向き直る。
すると、隣にいた山崎が携帯の画面を覗き込みながら言った。


「局長たちの方もうまく隠れ家を囲んだようです。場所はターミナルの近くの倉庫なので、騒音もあって気付かれにくいようですね。それに、武器商人たちは思ったよりも人数が少なく、6名だそうです。つい先程浪士たちが隠れ家の倉庫へと入っていったのを確認したとのこと。全部で12名。これなら容易く現行犯逮捕出来そうですね」


山崎は近藤さんから届いたメールを読み上げると、少しほっとしたような顔をして、それを上着にしまいこんだ。


「そうか。それじゃあ予定通り二時に突入だ。おい、そろそろビル周辺へと移動するぞ!」


振り返って店内で息を殺していた隊士たちに小さく叫ぶと、はいと控えめに、でも威勢のよい返事があった。


俺たちは周囲を気にしながら、すばやく向かいのビルへと移動した。



 
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