Treasure

□オールドローズ
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いつもとは違う都心の高級ホテル。どちらかが動く度に柔らかいスプリングが跳ねる。ふわふわのシーツが滴った汗を吸い取り所在無さげな手がシーツを掴むとその上からあいつより大きな手が優しく重ねられた。のしかかる体重はあいつより重くて、でもさらりと髪をなぞるとどきりとするほど感触が似ている。

苦しい、苦しい、苦しい。

絶頂に上り詰める程に高鳴る耳鳴りと動悸がどうしようもなく苦しくて、胸が締め付けられる。涙が溢れて止まらない。殊更優しく触れる手に、気持ち良いと叫ぶ本能に理性が負けそうで、私はまた涙を流す。

「悪ィ。」

ベッドに入ってからは何も話し掛けてこなかった彼が頬に優しくキスをして、初めて言葉を発した。その言葉にはっとして瞳を開くと微笑みとも苦笑いとも見れる様な表情をしているのが見える。

どうしてこんなことになったのだろう。

わずかに残った理性の欠片でうっすらと考える。

「土方さん…。」

わかりきったそれに目を伏せると、誤魔化すように抱き付いた。








大学、大学院と人よりも少し多く学生生活を送った後、私は研究所に就職した。元々研究がしたくて大学に入ったのだから研究所に就職したのは当たり前のことだったのだが、今は就職氷河期。ギリギリ内定が取れたのは地元から新幹線で三時間の所だった。高校から一緒にいる彼は、順当に大学を卒業し二年前から地元で働いている。歳をとるごとに共有できる時間は段々と減少していき、私が地方に就職した今では全くといって良いほど会わなくなった。

高杉晋助と言う男は、掴めない男だ。

彼の携帯電話のメモリは殆どが私の知らない女性の名前で埋め尽くされている。元々彼は自分の彼氏だという訳ではなかったし、身体の関係はあるものの私の生活が彼だけではないように、彼の生活も私だけではない事を解っていた。
けれど、私は彼が好きだった。





「土方さん…。」

肌と肌が触れ合い互いに熱をぶつけ合う。いつも冷静で感情の昂ぶりなどは絶対表に出さない彼が私の上で苦しそうに顔を顰めながら汗を垂らす。思わず縋りついた腕は彼の背中に回され、彼で満たされていった。

「俺を選んでくれ。」

耳元で囁かれ、頬を優しく撫でられて、首筋を這う舌に頷いてしまいそうになる。しかし、ただ優しく触れる感覚には慣れていない。酷いくらいに、強く刻み付けて欲しい。そんな抱き方をする人を、私は知っていた。

「ごめんなさい。あなたは、あいつじゃないの。」

背中に回した腕に力をかけて強く強く抱き付く。ごめんなさい、ごめんなさい、と熱に浮かされながらも考えることはあいつのことで。

「こうやって抱かれている間にもあいつの面影を探してる。」

口では酷い事ばかり言って、これ以上無いくらい優しく触れて、片方しかない深い瞳に見詰められれば全て見透かされた気分になる。厭らしく口角をあげ笑う様に私の身体はどうしようもないくらい熱を持つのだ。


「あなたは、あいつにはなれないの。」








オールドローズ





20100411 title by shambolic

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