西へ東へ

□夕暮れの廃墟
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腹に鋭い痛みを抱えていた。

塀に背中を預けて、ずるずると地面に座り込み空を仰げば、曇り空。雨が降るかもしれないと更に気分が沈む。


気持ちの悪い生暖かい血が制服を濡らしていた。すっぱりと切られた服から、ぱっくりと開いた傷が見え隠れしている。

出来ればこんなもの見たくもない。だが、見ても見なくてもこの傷が塞がることなんて、ない。


助けを呼ぼうにも、ここは廃墟と化した街の一角。人がいるとも思えない。


ちっと舌打ちが漏れた。


単独で深追いしたのがまずかった。

供に攘夷浪士の取り締まりに出かけてきていた近藤さんや総悟たちとは別行動をとっていた。

ばらばらに散らばって逃げた浪士たちを分担して追うことになり、俺の追う浪士はこの廃墟の街に逃げ込んだ。
馴れない場所に、見失った浪士を探していたところを不意打ちを突かれ、このざまだ。


どうしたものか。


携帯電話は電池が切れて繋がらない。ここに俺がいるということも誰も知らない。それでも、誰か人が来るまで待つしかないか。

だが、一体いつになったらやって来る?
それまでに俺の方が力尽きてしまうかもしれないというのに。

やはり、ここを出るしかないか。
そう覚悟を決めた時、じゃりじゃりと小石を踏む足音が聞こえてきた。それはだんだんと近付いてくる。


「誰かいるの?」


若い女の声がした。隊士じゃない。


「怪我してるの?」

「ここだ」


声を上げると、壁に映った人影が視界に入った。廃墟の壁を回りこんでこちらに向かってきているらしいその人影は、俺の声を聞いて足を速めた。
もしかしたら、俺の流した血を追ってここに来たのかもしれない。

しかし、こんな人気のない所に一体誰だろうか。

廃墟の街にはもう人がほとんど住んでいないはず。人が来るとしたら、廃墟と隣接している貧困層の人間が住んでいる小さな町からだろうが、そこの人間だろうか。

大きくなる影をじっと見つめていると、やがて廃墟のビルの隙間から、ひとりの女が現れた。


「血を追ってきた。怪我してるんだね」


俺を見つけるなり、女が言った。

水色と濃い青の矢羽柄の着物を着た女は、化粧っ気のない顔をこちらに向けると、探るような目で俺の全身を眺めながら近付いてきた。
女は肩からは黒い大きな鞄と水筒をぶら下げている。



「誰だ……」

「そんなこと気にしてる場合?」


女が呆れ顔で俺を眺めてから膝を折った。屈んだ女が俺の着ている隊服を見て、不思議そうに首を捻った。


「あんた、警察なの?」

「それが、どうしたんだよ」


眉を寄せて尋ねると、女は別にと呟いて、ちっと小さく舌を打った。


 
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