西へ東へ

□一寸先
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1時56分。


エレベーターを取り囲む。
階段から逃げられないようにと、ビルの外階段へと隊士を数名向かわせ、そのまま階段を登る者と一階で待機する者で分かれた。

エレベーターの上のボタンを押した。エレベーターは二つ。
右側のエレベーターはすでに止められていて、左側のエレベーターは、俺が8階へ降りた瞬間停止する手はずになっていた。

到着したエレベーターに、隊士6名が乗り込む。8階のボタンを押した。

山崎は無線で連絡を取り次ぐために、階下で待機。
そして、漫画喫茶で待機している隊士たちも、今頃階段で9階へと気配を消して移動しているはずだ。


時計を見る。


1時58分。


「おい、準備はいいか」


すでに鞘に手をかけた隊士たちに振り返らずに言った。無言で頷く気配がして、エレベーターが8階へと到着した。


廊下へと出る。
人の姿はない。それどころか人の気配すら無かった。

廊下を進むと、突き当りと手前に向かい合うようにして扉が二つ。
それぞれの扉に隊士たちを配置させて部屋の中を伺うも、やはり人の気配はない。

時間が時間だ。寝ているのだろうか。
いや、それにしてはどこかおかしな雰囲気が漂っている。
いやな予感がした。


「手前の部屋から探る。突き当りの部屋は後回しだ。三人ずつ分かれて入るぞ」


小声で合図してから、ちらりと時計に視線を落とす。


2時。


「いけ」


さっと手を振ると、待機していた隊士が扉を勢いよく押し開け、そのまま一気に部屋へと入った。


そして、目を見張った。


「何だこれは……?」


その部屋は12畳ほどの部屋だった。
大きなテーブルにそれを囲むように置かれたソファ。テレビに冷蔵庫と、ちょっとした接客室のような内装。


その部屋に男が3名。床に伸びていた。


「副長!浪士たちが倒れています!」


向かいの部屋から隊士が一人飛び出してきて叫んだ。
俺は部屋を飛び出して向かいの部屋へと駆け込む。すると、そこも同様の光景が広がっていた。

床に倒れた浪士たち3名。それぞれ、いびきをかいて寝ている者もいれば、ソファで気持ちよさそうに寝ている者もいた。

しかし、寝相が悪いとか普段そこで雑魚寝しているような状況でないことはわかる。
床に転がっている浪士の中には、手に拳銃や刀を持ったものもいたからだ。

それに、部屋に残るかすかな匂い。これは眠り玉の匂いだ。


「誰かに眠らされたのか?」


誰かの襲撃があったのは確かだ。
殺さずに眠らせる。争った跡がないことから、あっという間の出来事だったに違いない。

真選組の隊士ではない。

しかし、一体誰が?

一時間前からビルを取り囲んでいたが、他の攘夷集団や組織が襲撃に入っていった様子はなかった。
それに、ずっと見張っていた密偵からは一時間半前には浪士たちが起きて8階から10階までを頻繁に移動していたのを確認している。


「おい、突き当りの部屋だ!」


そこも同様なのか、確認しようと部屋のドアを勢いよく開いて中に入った。

そこは入って小さなリビングがあり、簡素なキッチンがあった。部屋の奥にはベッドが二つ並んでいて、更にその奥に扉が見える。

しかし、そこには誰もいなかった。

奥の部屋へ、と小声で指を差して近くの隊士たちに合図すると、俺たちは足音を消して部屋の奥へと移動した。

そして、扉を開けて中に踏み込んだ。


そこもまた寝室になっていた。三つ並んだベッドがあるだけの部屋。
その脇に浪士2人が倒れていた。


「どうなってるんだ……?」


目を丸くした隊士が呟いた時、廊下の方から物音がした。

起きている者がいたのかと、はっとして廊下に飛び出た。
すると、外階段の方へと出て行く人影が二つ。


「追うぞ!」


隊士を二人取り残して、四人で外階段の方へと飛び出した。逃げた二人は外階段を下っていく。

しめた。階下には隊士たちが張っている。

しかし、音を鳴らして階段を下っていく足音は止まらない。待機しているはずの隊士たちの声もしない。


「おい、無線で階下の奴らに連絡取れ!」


後を追ってきている隊士がすぐにやりとりをはじめるが、無線からは何の応答もない。


「どうなってんだ?!」


6階まで降りてきて、驚いた。

待機していたはずの隊士までもが、階段の踊り場で眠りこけていた。


その時、9階の隊士から「浪士確保しましたが、全て何者かによって眠らされていました!」と無線が入る。


「何だと?!」

「10階、浪士全員眠らされてやす。こっちは全部で3人」

「9階は2人です!」


カンカンカンと音を立てて階段を降りていく足音は続いている。

どうやらビルに残っていた浪士たちは全員眠らされていたようだ。

倉庫へと向かった浪士の数と今眠らされていた数を合わせてみると、事前に密偵から報告があった人数よりも一人足りないことに気がついた。


もしかしたら、今ビルから出ようとしている奴が残りの一人か?
しかし、それならどうして浪士を眠らせる必要があったのか?

自分だけ助かろうとしてしたこととは思えない。


「何なんだ……?!」


踊り場で眠りこけていた隊士を、一緒に追っていた隊士に任せて階段を駆け下りていると、足音が消えた。

一階に出てしまった事に気付いて焦る。


階段を降りてエレベーターの横を通り過ぎると、一階で待機していたはずの山崎や隊士も同様に眠りこけていた。

ちっと舌打ちをして、ビルを飛び出した。


走り去っていく音を頼りに薄暗い道路に出ると、走っていく一人の男の背中が一瞬確認できたが、すぐに道路を曲がって路地裏へと逃げ込んだ。


急いで後を追って路地裏へと駆け込むと、すでに二人の姿はなかった。


 
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