Treasure

□せってん
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新しい制服を受け取った日、ようやく自分があの銀魂高校に入学するんだという実感が湧いた。鏡の前で一回転してみたり、親に制服姿を披露すると「気が早いわね」なんて言われ笑われた。


憧れの高校生活が始まる。緊張と期待が高まる中、何日も前から準備をした。







「なのになんで遅刻するのー!!」





張り切りすぎて前日は寝付けなかった。そのせいで遅刻、してしまった…。
桜がふわふわと舞う中、全力疾走して向かった。誰もいない通学路を一人で走っているとなんだか情けなくなってくる。

入学式だし、気合いいれて編み込みを入れたツインテールにしようとした髪型もただのポニーテールだ。ああもう、入学式から遅刻だなんて、私の高校生活大丈夫なんだろうか。先行きが不安になりながら、ようやく姿の見えた校舎を目指して走った。

やっと校門を通り抜けようとした時だった。左肩に何かヌルッとしたものが勢いよくぶつかってきた。余所見をしていたのと強い衝撃だったのとで、私は思いっきり吹っ飛んでしまった。


「きゃ!」


ずてん、と肩から落ちて少し痛かったけど、どこも擦りむいたりはしていなかった。制服は少し汚れてしまったけど。


「すっ、すみませ…」
「すまない!大丈夫か!?」


体を起こすと、目の前に手を差し出されていた。目線を上げると顔立ちの綺麗な長髪の男性がいて、焦った表情で私を見ている。


「すまない、寝坊をして慌てていたもので。怪我はないか?」
「私は大丈夫ですけど…あなたの方こそ大丈夫ですか?」
「ああ、俺は平気だ。それより…もしや君も銀魂高校の生徒か?」
「え?」


よく見ると彼も銀魂高校の制服を着ていた。はい、と言うと、ならばお互い急がねばな、と言って爽やかな笑顔を向けられた。




美少年とは彼のような人を言うのだろうか。整った顔立ち、流れるような艶のある長い黒髪。きらきらした瞳。優しい笑顔に紳士な振る舞い。私の頭はふわふわした気持ちで埋め尽くされていた。



「どうした、立てないのか?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「では急ぐとするか。入学早々の遅刻は目立つからな」



そこで私は自分が遅刻していることを思い出した。慌てて鞄をひっつかみ、立ち上がる。



「いけない!急がなきゃ!」
「ああ、急ぐぞ!」




そうして今度は二人で校門を走り抜けた。さっきは一人で寂しかったけれど、今は後ろを走る彼のことが気になって仕方ない。
入学早々と言っていたから同じ新入生なんだろう。もし同じクラスだったらどうしよう、なんて考えて顔が緩んでしまった。後で名前を聞こうか、それともあえて聞かないでおこうか。こんな考えも恥ずかしいけど、こうして出会ったのも運命かもしれない。だって入学式に同じように遅刻して、同じ場所でぶつかるなんてそうそうあることじゃない。
しかも相手はとても綺麗な人だから、余計に胸が高鳴った。誠実そうな雰囲気だったし、こんな人とこんな出会いをしてしまったら気にならない方がおかしい。


私の高校生活、どうなっちゃうんだろう。今まで以上にワクワクドキドキした気持ちを抑えながら、ちらりと横目で彼を見た。すると彼は、どこから出てきたのか大きな魚を加えていた。思わずそれを凝視してしまっていると、彼と目が合った。


「む?ほうひは?」






そういえば、ぶつかった時、ヌルッとしたっけ。あれの正体はこの魚だったのか。一気に自分の中の何かが小さく萎んでいくのを感じた。



「あの………それ………」
「これか?朝食を食べる暇がなくてな。小型種だがカジキマグロだ」
「カジキマグロが…朝食…?」
「ああ。学校にも調理室くらいあるだろう?」



いやそんな問題じゃないでしょ、と思いながら、カジキマグロを脇に抱え走る彼とほんの少し距離をとった。





ちょっと関わりたくないと思った彼が同じクラスだと知って絶望するのはもう少し後のこと。私の高校生活はどうなっちゃうんだろう。




end




20100428
佐伯アサキ

SHAMBOLIC/あらすじ企画参加作品

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