Treasure

□四月馬鹿
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もう15歳ともなると、薄々自分のことがわかりかけてくる年だ。それは私も例外なんかでなく、むしろ私は私で自分のことをこれでもかと言うほどに解りきってると言っても何らおかしくはないかもしれない。

いや、ていうか、これだけ分かりやすいのも理由の一つにはいるのかもしれないけど。だって、ことあるごとに、・・・むしろもっとはっきりいえば、運動会とか、文化祭とか、修学旅行とか、遠足とか、そう言うイベント毎と称される日が近づくと、私はだいたいおかしくなっちゃうのだ。

おかしくなっちゃうと言うと、・・・そりゃあ、もう文字通り。

イベント当日に寝坊するなんて当たり前。泊まりの日に替えの服を忘れたり、財布を持ってきたのに中身のお金を忘れたり、酷いときは慌てすぎて友達の待っている玄関にパジャマ姿で「お待たせ行こう!」なんて叫んだこともある。しかも、友達なんて言うけれど相手は女子じゃないからなおさらだ。

あのときは玄関先で立てなくなるほどに笑われた。腹筋を筋肉痛にさせられたと後日あらぬ言いがかりをつけられるほどに笑われてしまった。そんなの私が悪いんじゃなくて、そこまで笑い転げたアイツが悪いのだ、言いがかりもやめてほしい。全くもう。

ま、それはともかく、とにかくそういうことが頻繁というかほぼ毎回と言うこととなると、やっぱりイヤでも「これ」は私の悪い癖とか質とか、そう言う部類になるのだろうと理解してもいいはずだ。それだから、私はそれを未然に防ぐために、色々工夫した。

前日無駄に動いて疲れやすくしてすぐに眠れるように、とか、お母さん含めお父さんにもいちいち忘れ物がないかどうか2回はチェックして貰ったりとか、机の椅子の上に制服を完備して、すぐ目に付きやすくしてまだ自分が制服を着ていないよ、そう制服に主張させたりとか。

果てには友達3人に頼み込んで、5分毎におはようコールとか荷物チェックとかのメールや電話をしてくれるようにし向けたりとか。

時々失敗したりとかもしたけれど、ここまでやると、大体私はいつも通りに振る舞うことが出来るようになってきた、初めの頃と比べると大きな、否凄い進歩なんじゃないかと自分では思う。「奴」には散々バカにされたけど(「お前中学生になってそれはねーだろ!ドジ通り越してバカだなバカ」)、でもあのときアイツに死ぬほど笑われたことよりはいくらかマシだ。・・・と、思う。なんか釈然としないけど。

とにかくそれはおいといても、中学3年の一年間は、そこまで目立った失敗もなくなっていて、おかげで第一志望だった銀魂高校にまで合格することが出来たのだ。あの、イベント毎にとことん弱かった私が、受験日当日落ち着いて、忘れ物もなしで、頭の中の記憶情報もほぼ残したまま、解答をほぼ埋めることが出来たのである。

そのめざましい変わりっぷりに、アイツもぽかんとして、その馬鹿面が本当に面白くて、せいせいして、私は自分がこの弱点を克服することが出来たのだと思った。


思うだけなら、簡単だった。

中学3年間のあの日々を思い出しながら、私は隣で喉の奥で堪えるように笑っている奴の声を全力で聞かないようにしながら、口の中のパンを思いっきり咀嚼した。


「くくっ・・・あ、相変わらずだなテメーも」

「うっふぁい!」

「おいしゃべんじゃねぇよ。汚ぇ」

「んぐぅ〜〜」


高杉にしかめっ面をされて、私は眉間に思いきり皺を寄せながら口をもぐもぐもぐもぐ動かす。ううう悔しい悔しい悔しい悔しい!悔しいけれど喋れないし喋れたとしても言い返せないのが更に悔しいいいいいいい!

んぐんぐうなりつつパンを飲み込んでゆく私を見、高杉は更に「可愛くねえウサギだな」と言いやがりました。ガッデム!

・・・まあ、どんなに隣の高杉を恨んで蹴って叩いて罵利雑言を並べ立てたって、健気に私を待っていてくれたことには変わりがないから、ちょっと申し訳ないきもちにはなる。本当にちょっとだけだけど。それに、今日が銀魂高校の入学式で、尚且つこの時点でしっかりばっちり遅刻してしまっているのだし。

そう、あれは昨日の夜が問題だった。今日のことを考えたら、結構早めに布団に入るべきだったのだ。だけど昨日は毎週見ていたドラマの最終回でものすごく気になっていたし、その後も友達から電話がかかってきてその話題がさっきのドラマのことだったから異様に盛り上がってしまって、それが終わった後も今日のこととかドラマのこととかで興奮して眠るに眠れなくなっちゃって。

・・・うん、どう考えても仕方なかったと思うのだ。ドラマは録画はしてあったから、それと同時にドラマを見なくても録画したやつを保存しておいて見たいときに見ればいいのだし。でも、放映当日に見るのが正しいドラマの見方だと私は信じて疑わない。でも高杉に言ったら絶対「馬鹿だろお前」って笑われるんだけど。イヤ、実際「どうせ昨日夜更かしでもしたんだろう、バーカ」って言われたけど。・・・うう、ちくしょう!

ゴックンとパンも飲み込んだところで、高杉が携帯のフリップを開けて時間を確かめた。ちなみに私のために今までゆっくり歩いてくれてたので、まだ家から出てちょっとの距離しか稼いでいない。

うん、この気遣いは嬉しいよ、嬉しいんだけどもさあ、なんだか気持ち悪いって思ってしまう私はおかしいんでしょうか?ううん言ってることとやってることのギャップのせいなんじゃないのと言われたらそうかもしれないですと言うしかないんだけれど、それも疑問にならない?ツンデレ?ツンデレですむのかな?・・・や、考えるのよそう。高杉がツンデレとか、考えたくない。

その高杉が私に目を向けて、


「よし、走るぞ」

「どぅえええ!?も、もう無理でしょ!今から走っても間に合わないってば」

「ここから全力疾走すれば、なんとか間に合う」

「アンタ鬼・・・!?」


まるでこともなげに言ってのける高杉。いやいやふざけるなよ!私まだ道覚えてないんだから、一発で学校まで辿り着けるかどうかわかんないぞ!しかも物を食べた直後に全力疾走って・・・入学式早々リバースなんてしたくもないからね!?

高杉は私を見て、俺だって初日から走るなんて面倒くさいことしたかねーよ、と言わんばかりの時と目で私を睨んだ後、


「初日から先公に目ェつけられるだけは面倒だからな。これからサボりにくくなるし」

「高校でもサボる気満々ですか、アンタは」

「ぎりぎりだろうが間に合うんならその方がいいだろ。オイ、鞄出せ」

「え」


ああすいませんね、私のせいで面倒臭がりな君にも全力疾走を強要してしまってーとそのじと目を睨み返したら、何のことはない高杉らしい理由が帰ってきた脱力した。そうだね、アンタってそう言う奴だよね、腐れ縁の私が悪かったよ。

わかってたことだけど何とも言えない気持ちの私の手から更に超新品のこっそりお気に入りにもなりつつあった指定鞄をひったくった高杉は、そこで意地悪そのものの笑みを浮かべてくださりやがりました。



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