vivid
□リセット
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報告書を書くのは30分で終わった。
山崎の知能指数の低い作文をどうにかそれなりの文章にして、まとめてやったつもりだ。
それを土方が確認している間、私はそっと襖を開けると、戸にもたれかかって庭を眺めた。
道場の方で、隊士たちが稽古に励む声が聞こえてくる。
屯所は男たちのむさくるしい匂いがした。いつも賑やかで、毎日が祭りのような騒がしさ。
こんな風だったかと、数ヶ月ぶりの屯所がなんだか懐かしく感じた。
私もここで暮らしたら、どんな生活になるだろう。
退屈だと感じることはないかもしれない。
庭を囲む塀の向こう側で、熟れた果物のような色をした夕陽が沈んでいく。
穏やかで温かい日の光を浴びていると、なんだか眠気が襲ってきた。
早朝起きて昼寝して夜遅く寝るという仲居の生活リズムから抜け出すために、昼寝をしないようにしていたのだが、どうしても起きるのは早朝。そのせいか、こんな中途半端な時間に眠くなる。
まぶたが重くなってきてうとうとしていると、ついに意識を手放してしまった。
目を覚ましたのは、すっかり日が落ちて辺りが暗くなった午後11時を回ってからだった。
起きてまず思ったことは、自分の部屋じゃない。
次に、今自分は潜入中だったか。
そして、誰かに拉致されたのではないかと思った直後、視界の端にタバコを吸っている土方が飛び込んできた。
それで、私は一気に全てを思い出した。
「お前は人の部屋でいつまで寝てるつもりだったんだよ」
戸にもたれかかった状態で寝ていたために、身体が固まって腰が痛い。
身体がぎくしゃくして立ち上がれないでいる私に、土方は眉を上げる。
「す、すみません」
「そんな格好で寝てるからだバカ」
「もしかして、ずっと待っててくれたんですか?」
「んなわけあるか。飯食いに行って風呂入りに行って、それで帰ってきてもまだ寝てたからびっくりしてタバコ吸ってたところだ」
「ごめんなさい……」
まさかここで寝てしまうとは。よりにもよって、土方の部屋で。
腰をもんだり伸ばしたりして、ようやく立ち上がることができた。
「あの……報告書はどうでしたか?」
気まずくて顔を見ることが出来ないので、恐る恐る土方の手前の柱を見て言うと、上出来だと返事が返ってきた。
「どうりでぐーすか寝ちまうわけだよ」
「それは、本当にすみませんでした」
恥ずかしくて顔を上げられないでいると、笑声が聞こえてきて、顔を上げると土方が声を上げて笑っていた。
「で、お前は今日はここに泊まるつもりかよ?」
「まさか!帰ります!失礼しました」
慌てて廊下に飛び出した私を、土方が呼び止めた。
振り返ると、笑みを引っ込めて少しまじめな顔をした土方がそこにいた。
「お前、ここで暮らすのと外で暮らすの、本当のところはどっちがいい?」
その問いかけに、私は驚いてぽかんと口を開けた。