novel『ハガレン』Vol.1短編N

□『コクインの証明』
1ページ/1ページ


 −俺の存在がお前の証だ!!−


その時、僕の中でナニカが産まれた。
それは、僕だけの導きの星…



目の前に叩きつけられた疑問。
”魂”と言う不確定な存在。人体を構成する3要素の一つ。科学者とされる錬金術師が、信じている矛盾した定義。
曖昧で、あやふやで、非科学的な、目に見えない存在。

それが現在の僕の姿。

鎧に描かれた血印でかろうじて現世に定着している、にすぎない。
それでもよかった。
何も考えてなくて、ただ「元の身体に戻る」と誓って走り出したあの頃は…

ソイツは言った。
『誰かに創られたんじゃないか』って。記憶も、僕自身も。
「嘘だ」「間違いない」と叫びながらも、動揺は広く深くに波紋を投げ掛ける。

存在理由を。存在価値を。存在定義を。存在意義を。


−ボクは、ダレ…?


目の前全てが”偽り”に染まる。
存在自体も嘘で塗り固められる。
感じない”ココロ”が…疼く。

”痛み”なんてとっくに忘れたつもりだった。
”哀しみ”なんて感情、思い出したくもなかった。
空っぽの中の”ココロ”が、痛い…
泣きたいのに泣けない。
悔しさとか、寂しさとかの感情のはけ口が見つからない。
考えたくないのに、空洞に降り積もっていく”苦しさ”。

僕は、誰?

僕は、何?

僕は…僕の真実は、どこへ…?


こんなに夜が長いとは思っても見なかった。
子供の頃とは違う現況。
ちょっと以前とは違う、現状。
目標にひた走ってきたちょっと前とは異質な、現刻。


虚ろの狭間で揺れ動く、どす暗い情念。

誰に向かって?何に向かって?

この灰色な世界が”ユメ”なら、楽に、なれるのに…



見つからない”ナニカ”。それは”答え”じゃない。
僕が”ココに居ていい理由”…



「俺の存在がお前の証だ。それでも足りないなら、この魂も精神も、肉体全部、お前にやる。だから…」

 −だから信じてくれ、アルフォンス−


泣けない涙の代わりに、兄さんが泣いた。

こんなにも近くに、僕の”命”の証明があったなんて…

疑いで曇った”ココロ”が晴れていく。

「ごめん」


もう迷わない。
僕たち兄弟を繋ぐ”絆”。
それが、僕の生きる”糧”となる。

END
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ