novelオリジナル短編

□『星の疾風(つむじかぜ)』
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人力の乗り物が主流(ブーム)の常夏の国・シイア。
そんな中でも一際目立っているのが、超高速の走り屋達。
そして…



「やっぱり海風は気持ち良いねぇ」
「この国に生まれて良かったって思うよ」
「も少しスピード上げよっか?」
「うん」

快適な海辺のサイクリングを楽しむ呑気な学生四人組。
どこにでもある日常な風景である。

「どけどけどけー!!」

「「んをっっ!!?」」

その静寂を打ち破ったのは、不粋な雄叫びだった。

「吹っ飛ばすぞ!!コラァ!!」

背後から猛スピードで突っ込んでくるのは、暴走族顔負けの一台の改造自転車と、ドスの効いた青年の低い声。

「キャー!!!!」

避ける道幅もないこの状況では、大人しく吹っ飛ばされるしかない!
と、四人の若者は上半身を丸めて身構える。
が…

「…って、アレ?」

バビューン!!

「えっと…助かった、のか?」
「みたいね」

「で、さっきのは?ドコ行ったの?」

一斉にキョロキョロ、辺りを見渡す。

「あ…」
一人が何かを見つけて、ゆっくり指差したその先には。
波飛沫を豪快に立たせ、海の真ん中を突っ走る、さっきの青年の姿が…

しかもそのスピードたるや。
瞬きしてると、コマ送りされた画像みたいにどんどん遠ざかる。

「…スゲ」
あまりの勢いに言葉も出ない。

すると、
「今日のユウラも絶好調ね」
「カッコイイよねー」
「ユウラ様〜!!」
等々、防波堤一段下の浜辺から、複数の黄色い声がキャーキャー聞こえて来た。

そこで、初めて悟る。

「あれが有名な疾風のユウラかぁ」
「初めて見たよ、私」

一匹狼の走り屋・疾風のユウラ。
豪胆で破綻した性格の持ち主で、走る事が生き甲斐。
熱すぎる情熱を全て走りに注いでいる、言わば変人。

走るのを止めたら死ぬ病気だとか、愛車に跨がると人格が変わるだとか、何万人と轢き殺して来た狂人だとか。
彼にまつわる噂は、ろくでもない話しかない。

それでも女性の間では大人気で。
なんでも、そのワイルドさが魅力なのだとか…

ファンクラブまで設立して、始終追っ掛けが絶えない、らしい。
それが、この国だけに留まらず、世界各地に支部まであるそうだ。

垣間見た限りの感想で申し訳ないが。
容姿も顔も満更酷くはない。

だが、二枚目と言う訳でもない。

全体的には、競輪選手並の引き締まった体格をしている。
特に両脚の大腿は一品だ。

彼が本気で走れば、一日で世界を縦断出来る…と言う噂も、あながち嘘ではなさそうに感じる。

「でも、アレは無理なんじゃないかな?」

そう、彼の行く手に見えるは、この海最大のモンスターシャークの一群。

体長は、生まれたばかりでも50mはゆうに越える。

観測出来た史上最大のモンスターシャークは、体長100km、体重はあまりにデカすぎて計測不可能だったそうだ。

更に、獰猛なうえ雑食。
と教科書に書いてあったのを思い出す。


「あの群れの中に突っ込む気?!」
「自殺行為だぞ!?」
「逃げろ!!」

「キャー!!」
「ユウラ様ー!!」
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