novel『ハガレン』Vol.2N

□月の華
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「そんなに嫌だって言うんなら止めてやる」

「…え?」
突然ロイはエドに背中を向けて横になった。
玩ばれた限界の熱。粗い呼吸がなかなか整わない。
肌けたシャツを手繰り寄せながら、ロイの背中を見つめた。
憎らしいぐらいに規則正しく肩が上下している。静寂な寝息と共に。起きる気配は微塵も感じない。

「大佐…」

エドの呼び掛けにも答えない。
嬲られ火照った身体が、何を待ち望んでいるのか知っている。何を期待しているのかも…。
どうしたらいいのか、困惑の眼差しは唯一人に注がれる。

「…どうしたらいいの?大佐…」

何を問い掛けても答えてくれない。
今までこんなに冷たく感じた事はなかった。

−いつも、強引でわがままで、自分勝手に振り回して来たくせに…

いくら一人グチてみても、拗ねてみても、行き場のない疼きは治まらない。
ギリギリまで引き出された想いが、エドを苦しめる。
シャツのボタンを適当に閉めて、エドはロイと同じ掛布に潜り込んだ。
小さく消え入りそうになる声が、酷く惨めだ。

−何度名前を呼べば、こっちを向いてくれる…?

エドはロイの背中に額を押し当て考える。
発散出来ない痛みが、ただただ全身を締め付ける。

「苦しいよ…大佐…」

痛さと熱さと辛さで支配されている悲鳴。なのに、なぜだろう?涙は出ない。
いっそ泣けたなら、この想い全部吐き出せるのに…。

「何とか言えよ、バカ大佐…」

「バカとは失礼な」

ようやく聞けた声に期待が弾いた。
が、相変わらず背中越しで顔は見せない。

「君が嫌だと言うから止めたんだ。今日はもう何もする気はないよ」

”だからお休み”と−。

…それだけ?

「こんなにしといて…それだけかよ!」

「気に入らないなら一人で処理すればいいだろう」

愕然となる一言に、エドは何も言えなくなった。

−…こんなコト教えたの、大佐じゃないか。一人でなんて…

教え込まれた遊戯は、最初は無理矢理で。それからも、合意の上で…なんて事はなかった。

…いつもいつも。

だから、何をされてるかなんて理解しないまま。どんなコトされてるかなんて頭で考える間も与えられないまま。無我夢中でロイに縋りついていたダケ…

エドは恐る恐る自分の熱に触れた。

初めての恐怖に似た行為に…ようやく涙が零れた。

何だか情けなくて…どうにも出来ない自分が情けなくて…。

声を押し殺すように、泣いた。
自分自身を抱き締めながら。

「…仕方ないな」

ロイがエドの頭に小さく口接ける。
だが、決して謝罪ではない。
諦めに似た同情…?

「どうして欲しいのか、教えてごらん」

”私の身体を使って”

「…どう、って?」

涙を袖口で拭きながら、エドは上半身を起こした。

「ドコをどうして欲しいのかな?エドは?」

無造作に掛布をめくる。ロイは仰向けに寝転がり、試す様にエドを見つめた。
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