novel『ハガレン』Vol.4長編N
□『愛が呼ぶほうへ』
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東部地方の中間辺りに位置する、閑静な別荘地で有名な街エシャロ。
ロイ・マスタング中佐は、その街の駅に降り立った。
駅馬車を借り、行く事30分。
窓の外には美しい森が続いている。
空気も澄んでいて、空の色さえ違って見える。
さすがに別荘地だけあって、避暑以外の目的でやって来る人影はまばらだ。
季節が外れれば、管理する者たちを残して、ひっそりと陰気に包まれる。
街に住む者から言わせれば『静かで平和な街』だと絶賛。
だが、ロイにとっては『退屈な街』にしか見えない。
今は新緑の季節だから、割と人口も増えている、だけにすぎないのだ。
−金持ちとは、暇な生き物だな。
うらやましい限りの恨み言を、穏やかな微風が凪ぎ掠っていく。
ガタゴト揺れていた馬車が停まり、御者台から到着の声が届く。
「ここか」
ロイは持っていた住所の書かれた紙を握り潰すとポケットに無造作に突っ込んだ。