Story

□ナンパ男の災難 新志
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「ねぇ彼女一人?暇なら俺とデートしない?」

一人で駅前に立っていればナンパ男達の標的にされるのは確実な程に美しい女性。

きっとこの女性をナンパ出来たら彼は明日から友人達に自慢しまくるだろう。


「何もしないよ?飯食いに行こうよ。奢るしさ〜。あっ!俺美味い店知ってるんだよ」

下心満々だけどそれを先に見せてはいけない。

警戒を解いて、酒を飲ませばこっちのモノ。

後は酔わせて…ホテルに連れこんで…。


「暇じゃないし、食事は結構」
「え?」

妄想に浸っていた彼は彼女が発した言葉を聞き逃した。

「忙しいの。邪魔しないで頂戴」

何処か高飛車な感じの口調。

お嬢か?お嬢なら食事よりも気になる場所があるはず。

「なら、クラブ行かない?踊ろうよ。知り合いがサラ回してるからさ〜」
「興味ないわ」

あっさり拒絶された。

でもしつこくしたい程に彼女は美人だ。

「行こうよ。暇でしょ?さっきから見てたけど誰も来ないじゃん。すっぽかされたんじゃない?なら…」
「すっぽかしてねぇよ」

引き下がれないと強引に誘いをかけようとした彼の耳に聞き間違えようのない男の声が聞こえた。

「志保、悪ぃ。遅れた」
「…奢って貰うわよ?今日のディナー」
「…バックも買うのに?」
「それは前回分。今回は夕飯ね?」
「…金ねぇんだけど」
「自業自得って知ってる?」

彼を無視してやり取りをする二人。
彼は呆気に取られていた。
口を挟む暇もない程に繰り出される言葉の応酬。
彼の存在を二人が思い出したのは小1分経った頃。

「で?コイツはナンパ?」
「みたいね」
「見た目に騙されたか」
「あら?何か言った?工藤君?」
「い〜え。何も」

更なる応酬を繰り広げそうな雰囲気の前に彼がようやく口を開いた。

「な…なんだ。彼氏持ちかよ」

彼氏がいた女の子に決まって言う言葉。
捨てゼリフの様に呟き次を探すのがプロのナンパだ。

「彼氏?」
「…あぁ」

男の方が彼に詰め寄る。

「彼氏って言ったか?」
「え?ち…違うのか?」
「嫌、違わない!ほら、見ろ。志保!やっぱり俺、彼氏じゃねぇか!」
「……多分」
「多分って何?普通キスとか…それ以上もしてたら恋人じゃないのか?」
「…大きな声で変な事言わないで」
「認めろよ」
「だから多分って」
「多分じゃないだろ?確実じゃねぇか」
「…一応?」
「…よし!そこまで言うならこれからたっぷり証明してやるよ」

男は女の腰を抱き寄せ、顔を近付けた。
キスしようとでもしているかの様に。

「…バックが先よ」

身を引いて避ける女。

「…志保〜」
「バック買ってくれたら彼氏かも…」
「…援交みてぇじゃん」
「嫌なら良いのよ?私達はただのお隣さん。それだけだから」
「……う〜っ」

唸った男は意を決した様に彼女の手を引いた。

「買いに行くぞ!バック」
「じゃあ彼氏ね」
「…じゃあって…志保さん」
「文句ある?」
「いえ、行きましょうか。志保様」

二人は本格的に彼を忘れて行ってしまった。

残された彼は、ただ唖然とその姿を見送る。

今までに会った事のないようなカップルに当たってしまった彼。

「結局、彼氏持ちなのか?」

恋人なのか、お隣さんなのか、はたまた援交なのか…。

真実は闇の中……。



end

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