ヘヴィ・デイズ
□第5話*上出来な金曜日(午前・午後の部)
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ぽーう、ぽーう、ぽーう、
壁掛け時計の鳩が8時を告げる。
8時、か…
「緑里、ごはんこぼしてる」
「…うん」
「緑里、お味噌汁こぼすよ」
「…うん……ッ熱ぅ!?」
ふとももに味噌汁を垂らし、慌てて椅子を蹴って立ち上がった。
茶碗を持ったままあたふたしていると、姉貴が布巾を投げて寄越す。
「昨日からぼんやりしちゃって、大丈夫なの?」
呆れたように、肘をついて俺を見上げた。
探るような視線に耐えかねて、意味もなくテーブルの隅を拭きながら「大丈夫」とだけ答える。
「そう。ならいいけど。ほら、遅刻するよ」
「……大丈夫」
「大丈夫じゃない!さっさと学校行け」
ダイニングを追い出され、仕方なく食べかけの朝食を諦めてのろのろ支度に取りかかった。
学校には行きたくない……が、仕方ない。
「…いってきます」
歩きながら、何度も鞄のポケットにしまっておいたものを確かめてしまう。
流柳に「暦に絶対渡してね」と預かったものだ。
――高梁暦。
一体彼がどんな人物なのかという俺の質問に、「出来ることならばガムテープで巻いて縄で縛って鎖をかけてレジャーシートで飴玉みたいに包んで東京湾に沈めたいタイプのクレイジー」と凪紀子が答え、その場にいた全員が頷いた。
なんだそれ。
一体どんな人間だ。
よくわからないが無理だと叫ぶ俺を無視して、流柳は携帯片手にキッチンへ向かい、どこぞかへ電話をかけた。
そして、何やら短いやりとりをすると、すぐに電話を切り「明日から高梁暦は君と同じ学校に通うよ」と素敵に微笑んだ。
冗談かと思ったがどうもそうではないらしい。すごすぎる、すごすぎるだろ。
どこにでも裏口はあるものだ、とドクターはデスクの引き出しから何かを取り出し、俺の方へと投げてきた。流柳から簡単な説明を受け、あまりよく理解しないままそれを預かることになった。
それが今、ポケットに入っているケースだ。
「もし、俺が学校サボったらどうなりますか」
「少なくとも――、人が一人、死ぬことになるだろうね」
「…それは俺、ですよね?」
「んー…教えない」
脳裏に蘇るは流柳の微笑み。
…俺からすれば、ガムテープで巻いて縄で縛って鎖をかけてレジャーシートで飴玉みたいに包んで東京湾に沈めたいタイプとはまさに彼のことだ。
ちくしょう。学校行きたくない…ッ!!が、仕方ないッ!!!
今日は、これを渡すという役目と、もう一つ、流柳のパシリとしての初任務をこなさなくてはならないのだ。