ヘヴィ・デイズ
□−断片−
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「そこ、俺の特等席なんだけど」
10年前の、ある寒い冬の日。
学校帰りにふらりと立ち寄った小さな公園で、少女は独り、ブランコに揺られていた。
彼女はぴくり、と声に反応して俺を見上げたが、すぐに興味なさそうに視線をもとに戻した。もちろんそこを譲ってくれる気配はないし、俺自身も本当にどいてほしい訳ではない。
となりのブランコに腰掛けると、錆びた鎖が、きぃと鳴った。
「きみ、いくつなの?」
「…7さい」
「うわ、小学生のくせに家出?あのねぇ、家出は―…」
「ちがうわ、ママを待ってるの」
少女は俺の言葉を遮るようにそう言った。
その時はちょうど友だちと猫が家出中で、そのせいで色々ととばっちりを受けた俺は、家出はよくない迷惑だ、というやつあたり気味な説教でもしてやろうと思っていた。
出鼻をくじかれる、というのはこういうことを言うのだったか。
「なぁんだ。じゃあお兄ちゃんも一緒に待ってあげるよ」
「いやだ」
「……あっさり拒否するんだね」
ちょっと悲しくなるじゃないか。
とは言っても、もうだいぶ辺りは暗くなっているし、まだ幼い少女を独り置いて自分だけ家に帰る訳にもいかない。
全く。こんなところに娘を置いて、母親は何をしているんだか。