駄文
□かわいいウソ。
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「あーっ!!」
「?」
後ろの方で誰かが叫んだ。
それが自分に向けて発せられているものに思えて振り向くと、少し離れたところから、手をブンブン振りながら桜並木を走ってくる望ちゃんがいた。
「やっと見つけたぞ。」
望ちゃんは近くまで来ると、息を弾ませながら言った。
少し上気した頬が可愛らしい。
「何かあったの?望ちゃん。」
「・・・実は、のぅ・・・」
そう尋ねると、望ちゃんは静かに俯いてしまった。
何か重大なことなのだろうか。
少し心配になったが、すぐに上げた顔は嬉しそうだった。
「お主が好きなのだ。」
「・・・・え。」
まさか。
そんなまさか。
今日は四月馬鹿だし。
望ちゃんは僕をからかっているだけなんだ。
だから「好きじゃない」って事になる・・・んだよね。
僕は望ちゃんの事が好きだけど、彼に限って両思いなんてありえない。
「っていうのはウソ〜♪」
うん。そうだよ。
なんだ、やっぱりそうなんじゃない。
僕が固まっていると、望ちゃんはニャハハと笑って僕を見る。
またなにか企んでいるような気がしないでもないけど・・・。
・・・あれ?
でも今のもウソだったらやっぱり・・・好きっていう事??
「望ちゃん・・・今日って四月一日だよね?」
「ぅん?そうだが。」
そう言った望ちゃんの口の端が微かに笑った気が・・・。
まったく望ちゃんの考えている事はわかんない。
でも今日が何の日か知っているっていう事は、頭のいい望ちゃんのことだから、自分が反対の事を言っているのだと分かっている筈だ。
「・・・じ、じゃぁ、望ちゃんは僕が好きだって事で良いのかな?」
恐る恐る聞いてみると、
「さぁのぅ。」
そう言ってまた走って行ってしまった。
結局何を言いたかったのだろう。
これを言う為に僕を探していたの?
・・・やっぱり可愛い。
自惚れかな。
君が僕を好きなんだと思い込んで。
勝手に幸せな気分に浸って。
今日だけ。ウソの日なんだからウソの幸せでもいいや。
fin.