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□今夜だけは曇らないで
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―七夕。

それは天帝の怒りをかった織姫と彦星が年に一度だけ逢う事を許される、特別な日。


『今夜だけは曇らないで』


「明日は晴れるといいね、あかねちゃん」

桂木弥子探偵事務所のテーブルの上で大量のてるてるぼうずを作りながら、ヤコがアカネに話しかけていた。それに応えて髪を振るアカネの机の上にも、同じく大量のてるてるぼうずやら色紙やらが。

いつもなら、この机の上はきちんと整理整頓されていて無駄な物など何ひとつ置かれないと言うのに。

「明日は雨が降ると困るのか?」

そう聞くと、ヤコは作業の手は止めずに顔だけを向けて来た。

「トーゼン!明日は七夕だよ?年に一度しか織姫と彦星は逢えないのに、雨が降ったり曇ったりしてご破算、なんて事になったりしたら可哀想だよ」

「ふむ…」

居もしない存在に対してどうこうする感情は理解出来ないが、どうやら明日は雨どころか曇ってもいけないらしい事は分かった。

「―で、その道具には効果があるのか?」

「ある…と思うよ、多分。いや、きっと絶対あるよ。だってこんなにたくさん作ったし、あかねちゃんも手伝ってくれたしね」

てるてるぼうずを窓の脇に吊しながら、ヤコは楽しげに笑った。


―次の日の夜。

サァァァァ……

雨が降っていた。

どうやら、この大量のてるてるぼうずは雨に対して効果は無かった様だ。

先程笹を届けに来た吾代を「うぉっ何だこりゃ恐えぇ!」と、ビビらせる事には成功してはいたが。

「いっそ清しい程の降りっぷりだな」

「っうっさい!…あかねちゃん、そんなに落ち込まないで。一緒に笹の飾り付けしよっか」

アカネを励ますヤコの方も、ツッコミを入れる元気はあるようだが、どうにも表情が暗い。

―そこまで落ち込む様な事なのか。

ヤコはともかく、アカネの機嫌が悪いと探偵業に支障をきたす恐れがある。

ふと、思い付いた事を実行に移してみる気になった。
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