treasure

□彼岸花を偲ぶ
1ページ/3ページ

『彼岸花を偲ぶ』


「おや」

秋の気配が段々と近付いて来る9月の中頃。

いつもの日課で世界のグルメを堪能しに行こうとしていた私は、校庭の片隅に燃える様な紅い花の群生を見付けた。

「彼岸花―ですか。もうこの花の咲く季節になったんですねぇ」

以前の失敗をふまえて、この花が人の手による物では無い事を確認してから一輪だけ摘み取る。

ついでに背後から繰り出されたナイフをぬるりとかわしながら、いつもの様に眉毛の手入れを念入りに行った。

パチンとお手入れセットの蓋を閉めてから、少々わざとらしく話し掛ける。

「これは烏間先生。どうしました、こんな所で」

「…貴様、最初から俺が居るのを分かっていただろ」

「ええ、それはもちろん。流石は烏間先生、見事なナイフ捌きでした。しかし、いくら背後からとは言え何の工夫も無く襲いかかるのはいただけませんね。貴方も今では立派な先生なのですから、生徒たちの見本になる様な方法にして下さらないと困ります」

「俺にまで指導をするな、化け物」

烏間先生は少しばかり憤慨してかわされたナイフを握りしめていたが、ふと気が付いた様子で私の手元を見つめた。

「何をしているかと思ったら、なんだ彼岸花か」

「私の好きな花なんですよ。思い出の花、と言った所ですね」

その言葉を聞いた瞬間、彼の顔色がわずかに変化した。

恐らく私の過去を―主に3年E組の担任になろうとした理由を―探ろうとしているのだろう。その為に、どんな些細な情報でも聞き逃したくは無い様で、慎重に聞いて来た。

「おまえに食べ物以外で好きな物があるとは初耳だな。どうしてその花が好きなんだ?」

「それは―」

偶然、昔ある人に似た様な質問をした事があった。

懐かしい概視感(デジャヴ)を覚えて、目を細める。

そう、あれはまだ彼女が生きていた頃―
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ