treasure
□向日葵をあげる
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燃え盛る真夏の太陽が地面と言わず建物と言わず乱反射し、辺り構わず熱を撒き散らす。
そんな炎天下の中を1人の男―葛西善二郎が歩いていた。
―ビルが崩壊したあの時、降り注ぐ瓦礫は笑える程奇跡的に葛西の体からそれて落ちて行った。
そして、全身に酷い火傷を負いながらも、葛西はビルから脱出し今に至る。
(しかし今日も平和だねぇ)
1人の男が死んだ。
ただそれだけで殺気立っていた街は日常を取り戻し、葛西はヒマを持て余すはめになった。
そんな葛西がどこにでもある小さな公園の前を通りがかった時、どこからか子供の泣き声が聞こえた。
何気なく声のした方を見ると、白いワンピースに麦わら帽子をかぶった5才位の少女が大きな木の根本で泣いていた。
特にやる事も無かった事もあって、気まぐれに声を掛けて見る事にした。
「お嬢ちゃん、どうした?」
「…ふうせんがね、とんでっちゃったの」
少女にとって怪しげな男が近づいて来た事よりも重要なのか、必死な面持ちで上を見上げる。
葛西もつられてそちらを見上げると、確かに木の頂上付近に赤い風船が引っかかっていた。
―なるほど、これではこんな小さな女の子にはどうしようもない。
「…ちょっと待ってな」
そう言うと、葛西はおもむろに木を登り始めた。
それなりに高さのある木ではあったが、ビルの表面をよじ登る事と比べれば遥かに楽なものである。
あっという間に頂上まで辿り着くと風船を手にして飛び降りた。
少女に風船を渡すと、また飛ばしてしまわない様に手首に巻きつける。
「ほら、もう手放すなよ?」
「……」
「ん?」
何も反応しない事を不思議に思って顔をのぞき込むと、少女は目をまん丸にしている。
そして我に返って瞬きすると、はじける様に歓声を上げた。
「すご〜い!おじちゃん、スーパーヒーローだったんだね!ありがとう、ヒーローのおじちゃん!」
「ヒーロー…か。ヒーローね、まあ…違うと言うか、そうじゃないと言うかなぁ…」
(そういや、撤っちゃんも小さい頃は似た様な事、言ってたっけな…)
柄にもなく子供の夢を壊さない様に言葉を濁らせつつ、随分と変わってしまった甥の事を思い出していると、
「そうだ!お礼にいいものあげるっこっちきて!」
そう言って、少女は葛西の手を引っ張って走り出した。