treasure
□君の机の中に
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―叶絵side―
「あ、ヤッバ!」
お昼を告げるチャイムが鳴り、籠原叶絵は友人達と共に学生食堂へ向かう途中で、財布を忘れた事に気が付いた。
「叶絵ー?どったの?」
「ごめん、サイフ教室に忘れて来ちゃった。ちょっと取りに戻るから、先行ってて」
「あーうん、オッケー」
何気ない会話を交わした後叶絵は一人、逆の方へ向かう。
親友の弥子いわく、ハイレベルかつ低価格な学食をウリにしているこの学校では、弁当持参の生徒はほとんど居ない。この時間になるといつも教室はガランとした空間になる。
―因みに、当の弥子は特別メニューの洋風カレー目当てにチャイムが鳴るやいなやすっ飛んで行った。彼女に依ると「具材が溶けるまで煮込んだルウは濃厚かつサラッとしていて、控え目に顔を覗かせているトロトロの牛すじ肉との相性は抜群!そこにルウに合わせてスープで固めに炊いたライスが加わるともう…っ!」との事で、知る人ぞ知る隠れた人気メニュー…らしい。
静まり返った教室を中程まで進み、自分のサイフを見つけた時、ふと見上げた先が隣の親友の席だったのは、直前まで彼女の事を考えていたからだろうか。そこで叶絵は、ナニかと目が合ってしまった。
いや、目が合ったと言うのはおかしいかも知れない。何故ならそれは髪の毛の様な黒い束だったからだ。
蠢いていた様に見えたソレは、叶絵が目が合ったと感じた瞬間にピタリと止まった。
「………」
数秒の静寂。
叶絵は無言できびすを返すと、全速力で教室を飛び出した。そしてそのままの勢いで食堂を突っ切ると、今まさにカレー5皿目(大盛)に突入しようとしていた親友の所まで辿り着く。
「弥…弥子!」
しっかと彼女の肩を掴む。
「アンタの机の中に、何かが!」
「ええっと…何かって、何?」
普段あまり取り乱す事の無い叶絵の尋常でない様子に気押されたのか、弥子は恐る恐る聞き返した。
「何か…は分かんないけど、髪の毛みたいな黒い束が、アンタの机の中からうぞうぞと…!」
思い出すだけで鳥肌が立つとばかりに腕をさすった叶絵を尻目に、弥子は何とも言えない顔になった。