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□星見て思うは
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「さみー!!さみーよ、久保ちゃん!!」
「はいはい、静かにしなさい。近隣の皆さんの迷惑になるでしょ」

昼間は騒がしい街も、夜になればその姿をがらりと変える。
子供の声も、車の走る音も、昼間は街に溢れていた音が、聞こえなくなる。
そんな夜の住宅街から、突如、二つの声が響いた。

「んなこと言ってもさみーもんはさみーんだよっ!!」
「じゃあ、俺が温めてあげようか?」
「・・・・・・・・・温めてもらうならキレーなオネーさんがいい」
「あら、それはザンネン」

最初は一人でコンビニに行くはずだったのだが、色々あって二人で行くことになった、久保田と時任だった。
彼らは見えないかもしれないが高校生である。
学校でも規則を気にしない彼らは、日常生活でもあまり規則を気にしないようだ。
まぁ、久保田がいれば補導される心配はないだろうが。



そんな二人は、急ぐわけでもなく、割とのんびり歩いていた。
本人たちの意識しない、ほんの少しの微妙な距離を保ちながら。

時任が少し前を歩き、久保田が少し斜め後ろを歩く。
それは、時任をしっかりと視界に入れることが出来る位置。
時任が久保田に話しかけて、久保田が時任をからかう。
時任の反応が面白くて久保田はからかっているのだが、時任は気付いていないようだった。
しかし、からかいながらも時任を見る久保田の目つきは、優しいものだった。
他の人には絶対にすることのない目つき。
眼鏡に隠れてそれが見える事はないけれど。


「だーかーらー!!何でそうなる…………」
それまで話していた時任が、突然言いかけた言葉を止め、立ち止まった。
「?………どーしたの」
「久保ちゃん!!上見てみろって、上!!!」
「上?」
とりあえず言われるまま、視線を上にずらしてみる。

「あ」
「なっ!?スゲーきれーじゃね?」
季節が冬ということもあり、空気が澄んでいたのだろう。
空には東京では、滅多にお目に掛かれないであろう量の星が輝いていた。

「うーん、これはすごいねぇ」
「だろ?なぁなぁあれ、マク○ナルド座じゃね?」
「それよりあっちの方がそれっぽいんじゃない?」

二人して、空を指さしながら時間を忘れて話していた。
他愛もない、どうでもいいような話。
だけど、大切な時間。






「なぁ、久保ちゃん」
「ん?なーに?」
「・・・・・・・やっぱいーや。何でもねー」

ふと、不安になった。
星の数だけ、出会いがあって別れがあって。
なら、いつまで自分はこの隣いる男と一緒に居れるのだろうか、と。
漠然とした不安が、時任の胸のうちを侵食していく。
暗闇が、広がっていく。じわり、じわりと。
それに逆らうことが出来ず、次第に視界までもが暗くなっていくような錯覚に陥った。

待てよ、やめろよ。ミエナクナル……





「時任、大丈夫?」
「・・・・・・・・・・・・・久保ちゃん、居るよな?」
「うん。居るよ」

声をかけられた瞬間、視界が戻った。光が、見える。
大丈夫。俺は今、こいつと一緒に居る。

ふいに俯いてしまっていた時任を、久保田が覗き込むように見ていた。
時任が反応したのを確認し、頭を軽く撫でた。
そして、そのまま時任の手を掴み、歩き出す。

「随分冷えちゃたから急いで用事、済まして帰ろうか」
「・・・・・・・・・・おう」

久保ちゃんは、俺が思ってることが分かるみてーに、絶妙のタイミングで話してくれたりする。
今だってそうだった。
闇に、呑まれそうだった。
でも、久保ちゃんの声で戻ってこれた。
もう、久保ちゃん無しじゃダメなんだよ・・・・・・・・。
だから・・・・・・・・・・・・

繋いでいる手に、力が入る。
それに気付き少し時任を見て、久保田も握り返す。
ほどけないように、強く。
離れてしまわないように、強く。







大丈夫だよ、時任。
俺はお前が思ってるよりも、お前に依存してるから。
お前がいないと、もう俺もダメだから。
離れるつもりなんてないんだ。







そう思いながら、久保田は一瞬だけ星空を見て、前を向いた。
当初の目的である、コンビニに行くために。





















二人が別れを告げるのは、”死”が訪れたときのみ。
死ぬまで、君とともに・・・・・・・・・・・





End  →あとがき

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