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□白
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ひらり、ひらり

空から舞い落ちてくるのは、白い雪だった。

それを何をするわけでもなく、ただ見ている。

雪の降り続ける中、屋根の上で。


やがて降り続けた雪が少しずつ積もり、辺りを白一色に染めあげていく。

ふと、自嘲めいた笑いを口元に浮かべた。

白一色の汚れなき空間にいる自分という異色。

普段の自分そのままじゃないかと。

そう思った。


常に影で行動し、影で朽ちていく忍。
時代の黒き存在。
そして、常に独りである自分。

まさに今の風景そのもの。

しかし、自分は忍。

それが正しい姿。

本当の意味で、信用できるのは自分一人でいい。

この時代、いつ誰に裏切られるかなんて分かったもんじゃない。

昨日は仲間だった奴が、明日は敵かもしれない。

だから、余計な感情などいらない。

常に一人でいい。

今のように。



だから、こんな俺が必要以上に旦那に近づいてはいけない。

あの人は、疑うことをしない穢れなき眼をしている。

この雪のように白き心の人。

俺のような異色が近付いて穢してはいけない。



無意識のうちに、手を降ってくる雪に伸ばしていた。

雪は触れた途端に水へと姿を変える。

しかし、冷え切ったのだろうか。

しばらくすると、すぐに溶けることはなくなった。

その間に体に雪が積もっていく。

体温を奪われていく。


このままこうしていれば俺も白く染まれるだろうか。
このまま消えることが出来るだろう。


ふと、そう思った。





「佐助〜。どこにいるでござるかー!?」

下から、己を呼ぶ主の声が聞こえた。

行かないわけには行かない。

すぐさま主のもとへと向かう。

「はいはい。何の用です?」

「おぉ、佐助!!いっしょに饅頭でも食べようと思ってな。御館様にたくさん貰ったのだっ!!」

そう言い、佐助の手を掴んだ。

掴んだ瞬間、幸村は眉間にしわを寄せ佐助を見た。

「冷え切っているぞ、佐助。中に入って温まらないと風邪をひいてしまうでござる!!」

「大丈夫だって。そんなに俺様、やわじゃな・・・・・・・うぉっ!?」

話している佐助の手を思いっきり引っぱり、城の中へと入っていく。

「旦那〜?俺、忍よ?こんな堂々と城内歩くのはちょっと・・・・・」

「今は関係ない。こんなに冷えるまで外にいたお主が悪いのだ」

「いや、だから大丈夫だってば。それより旦那。饅頭はいいの?」

「そんなもの、後でいつでも食べれるであろう」

振り返りもせず、そう答えた。

どうやら大好きな甘味が後回しに出来るほどお怒りらしい。

しかし、裏を返せばそれだけ心配してくれいてるということ。

忍である自分を、一人の人間として扱ってくれている。

そんな風に接してくれたのは幸村が初めてだった。

そしてその幸村は、自分の主。

ならば、影である俺だからこそ出来る事で守っていこう。

たとえ独りであろうとも、これ以上近付くことが出来なくても。

この命尽きる最期まで。

この主に、尽くそう。

それが影である俺の出来る精一杯のこと。

だから、旦那はこのまま穢れなく白いままで。

穢れは俺が引き受けるから。

いつまでもこのまま。

「聞いておるのかっ!?佐助!!」

「はいはい、聞いてますよ」

そう言えば、疑いの眼差しがこちらを向く。

思わず、両手を挙げて降参の意を示した。

「旦那には敵わないよ、全く」

「??」

思わず呟けば、意味が分からないという様な顔をした。

そんな表情を見て思わず苦笑が漏れた。

「旦那は今のままでいて欲しいなぁっていう、話し」

「いきなり何を言っているのだ?佐助は」

「そうだね。ちょっと思っただけだから気にしないでいいよ、旦那は」

そう言いながら、佐助は幸村の頭をぽんぽんと軽く叩く。

子ども扱いするでない!!

そんな声が聞こえるが、そこは聞こえない振りをする。

そうすれば余計に怒ったような声が聞こえるがそれは予想済み。

涼しい顔して、何のこと?って聞けば、幸村はうぅ〜と唸ってしまった。

「饅頭、食べ行きましょうか?」

「・・・・・・・・ぅ。行くでござる」

再び、手を掴めば先程とは違い、ちゃんとした温かさを感じた。

「ちゃんと温かくなったな」

「!!!」

佐助はその台詞に、温かさを感じた。



















どうか、いつまでも穢れなきままで。

前だけを見据えて進んで。

影の事は気にせずに。

振り向かずに。

そのまま・・・・・・・・・・・・。









俺の主であり、
俺の愛しい人よ。






End

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