ウタリ
□闇の追跡
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「ティラ‥‥」
言葉を紡ごうとしたその時、悪寒が俺の背中を走った。
「どうしたの?」
無邪気に問うティラを手で制し、窓から外を窺う。
漆黒に染まりそうな道を、街灯が照らす。
その街灯すら、電灯が切れかかりその光景を細切れの映像のように
浮かび上がらせていた。
夜と同じ、漆黒の髪を持つ男。
「クロード‥‥」
心の中でとどめるはずが、口から漏れて音となった。
レイフォートの同僚であり、俺を実験用鼠同然に扱ってきた男、
カルロス=クロード。
クロードが出てきたとなれば、あぶり出されるのも必死。
任務に忠実で冷酷な男はこの界隈を火の海にしても俺を‥‥
いや、ティラを見つけ出すだろう。
クロードは幾人もの部下に命令を出してそのぼんやりと浮かび上がる光の中に佇んでいた。
「何があったの?」
声を抑えて、ティラが問いかける。
「今すぐ荷物をまとめる。
レイよりも厄介なヤツが来た」
その言葉に、ティラは一瞬凍り付き、しかし気を取り直したように頷いた。
荷物という荷物もなく、出したものをザックに詰めるだけ。
ティラに至っては持ち歩く程に荷物を持っていない。
俺は思い立って銃をザックの中からとりだした。