ウタリ

□殺人者は誰だ
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 ごとごとと腹を揺らす音がする。
低音の、規則正しい音。

「大丈夫?」

 ティラの高い声が聞こえた。

「大丈夫だ。
傷口は、外も中も塞がってる」

 俺が笑って答えるとティラは安心したような、まだ不安なような、
そんな微妙な表情を浮かべた。
漆黒の瞳も、心なしか潤んでいる。
 列車内は趣を重視した木製で統一されており
シートは赤いベルベットが使われていた。
金具は金、ランプを模した電気器具がそこここに見えている。
一つの車両に向かい合った席が各八組ずつ。
俺とティラは、一番端の席に座っていた。
 保存用の食料を囓りながらティラの様子を窺う。
さすがに疲れたのだろう、
こくりこくりと船をこいでいた。
 さらりと揺れる色素の薄い髪を見て、ふと金色の髪の女の事を思い出す。
 迂闊だった。
レイならともかく、クロードにあのような戦略を使うなど。
クロードは目的達成の為なら手段を選ばない人間だというのに。
 一体何人の人間が死んだのだろう。
俺が、迂闊だったばかりに。
 ティラを差し出していれば良かったか。
その考えが頭をよぎったが瞬時に否定する。
そんな筈はない。
ティラだって、生きた人間だ。
研究に使われていいはずがない。
 あの人達の代わりに俺が死んであげられたならば、
いっそどれだけ幸せだっただろう。
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